第115話 くまの●さん

「君たちにこれを授けよう」


 そう言ってアンアンマンがくれたのは剣だった。


「〝勇気の剣〟さ。これがあればきっと魔王を倒すことができるはず。じゃあ頑張ってね」


 アンアンマンに見送られて、俺たちは〝勇気の洞窟〟を後にした。


「これはキョウコの装備だな」

「まぁ、あたししか剣を使える人はいないしね……」


 キョウコは〝勇気の剣〟を装備した!


「すごい! よく斬れそう!」

「……た、試しに、何か斬ってみたらどうかな……?」

「そうね。じゃあそこの変質者を」

「誰が変質者だ、誰が」

「どう見たって変質者じゃないのよ!」


 ともかく、これで最初の試練を突破したぞ。

 何か強そうな武器も手に入れたし、次の試練の場所へ――


「ふはははは! 貴様らの旅もここで終わりだ、勇者ども!」


 突然、立ち塞がる巨大な影。


「な、何者よ!?」

「このオレは魔王軍四天王が一人、獣王ピーだ!」

「ま、魔王軍四天王!?」

「何で名前に自主規制が入ってるんだ?」

「違う! よく言われるが、ピーは名前だ!」


 ずんぐりとした体躯。

 鋭い牙と爪。

 そして、全身を覆い尽くすの体毛。


 ピーと名乗るそいつは――――熊。

 ていうか、くまのピーさんだ。


「かわいい!」

「……かわいいですね」

「確かに、かわいいわね」


 うん、どこからどう見ても紛うことなき愛くるしいクマさんだよな。


「だ、黙れ! 人が気にしていることを……っ!」


 どうやら本人は見た目にコンプレックスがあるらしい。


 それにしてもこんなところに魔王軍の幹部が現れるなんて……


「まぁ最初に出てくるということは最弱ってことだな」

「な、なぜそれを!?」


 図星らしかった。


「だが貴様らひよっこ勇者どもを踏み潰すなど朝飯前よ!」


 ピーさんは牙を剥いて叫び、襲い掛かってきた。

 それを迎え撃つJK勇者ズだったが、


「アチョー!」

「きゃっ!?」

「ホワチャー!」

「ひゃっ?」

「アチャチャチャチャー!」

「くっ!」


 いかに四天王最弱とは言え、魔王軍の幹部だ。

 こんな序盤で勝てるような相手ではなかった。

 手も足も出ず、一方的にやられる勇者たち。


 ていうか、なんでカンフーなんだ……。


「ふははははは! どうしたその程度か!」

「つ、強い……」

「……勝てる気がしないです……」

「どうすればいいの?」


 ピーさんはドヤ顔で勝ち誇る。


「どうやらまだ勇者が弱い序盤の段階に倒しておくという、オレの作戦に間違いなかったようだな! オレってば頭いい!」

「うー、ズルいよぉっ! 強い敵はもっと後から出てくるはずじゃないの!」

「ふはははは! なぜわざわざ勇者が育つのを待たねばならんのだ!」


 ごもっともである。


 彼女たちだけでは敗北は必至。

 仕方がない。

 ここは俺の出番だな。


「俺が奴を引き付けておく! その間にみんなは逃げるんだッ!」


 こういう場面に相応しい感じで言ってみた。


「なっ……ま、待ちなさい!」

「キョウコ、止めてくれるな。俺がやらねば誰がやる」

「そうじゃなくて、その格好で前に出ないでって言ってんのよ!」


 俺のぷりぷりのお尻から慌てて目を逸らすキョウコ。

 そっちかー。


「……さっきからずっと気になっていた。しかし触れては負けだと思って触れなかったのだが……何だ、貴様は?」


 先頭に出てきた俺を見て、ピーさんが訝しげに誰何してくる。

 俺はカッコよく名乗りを上げた。

 大声で。



「空前絶後のォォォォォッ! 超絶怒濤の芸人ッ! 裸を愛し、裸に愛された男ォッ!


 全裸、半裸、ノーパン、すべての裸の生みの親ァッ!  そう我こそはァッ!


 身長172センチ! 体重62キロ! 貯金残高5万4千円! キャッシュカードの暗証番号は0281ッ!! 財布は向こうの世界の自宅に置いています! 今がチャンスです! もう一度言います! 0281ッ! 『おっぱい』と覚えてくださぁぁぁい!


 そうすべてをさらけ出した俺は! カルナ~~~~100っ、ボフォッ! %ッッッ!!


 イエエエエエエエエエエエエイッ!!

 

 ジャスティス!!! 」(←両手をお盆から放すも、身体を反らすことで落とさない)



 ふっ……決まったぜ。


「……さあ、女勇者どもよ、続きをしようではないか」


 な……無視、だと……?


『無理もないかと』


「それにしてもそのもふもふの身体……抱き付いたら気持ちよさそうだな」

「やめろ!? それだけは絶対にやめてくれ!」


 何か物凄い勢いで拒否られた。


「そもそも何で貴様は裸なんだ!? 変態か!?」

「お前だって裸だろ。ナカーマ」

「オレは獣だからいいの! 貴様と一緒にするな!」 


 けど、くまのピーさんはちゃんと服着てたぞ。

 いや下半身は何も付けてなかったか……。


「くそ! 物凄く相手にしたくないが、まずは煩わしい貴様からぶち殺してやる!」


 ピーさんが巨体を躍らせて迫ってくる。


「に、逃げなさい! 何の武器も持っていない遊び人のあんたじゃ瞬殺されるわ!」

「心配するな。武器ならちゃんとある」

「どこによ!?」

「これだ!」


 俺はお盆をブーメランのごとく投げ付けた。


「それは投げちゃダメでしょうがぁぁぁぁぁっ!?」


 隠すものを失ってしまったが、背に腹は代えられない。

 そう、仕方がないのだ。


 キョウコの怒号が轟く中、お盆が回転しながら一直線にピーさんへ。


「ふっ! くだらん技だ!」


 それをピーさんは鼻を鳴らして迎え撃とうとして――


 ザンッ。


「は……?」


 ――胴体が真っ二つに両断された。


「「「え、ええええええええっ!?」」」


「ま、まさ、か……こ、こんなもの、で……?」


 ピーさんの巨体が崩れ落ちる。


「バカめ。どういう技か見切れんのか」


 俺は決め台詞(?)とともに戻ってきたお盆をキャッチし、再び股間を隠す。


「いやいやいや!? それお盆よね!? 何でお盆でそんなことができんの!?」


「む、無念……ぐふ……」


 こうして俺たちは四天王最弱のピーさんを倒したのだった。




   ◇ ◇ ◇




「獣王が勇者どもにやられたようだ」

「まさか、もう勇者はそこまでの力を……?」

「だがあいつは四天王最弱……」

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