第116話 知恵の塔
「ここが二つ目のダンジョン、〝知恵の塔〟だな」
俺たちの目の前には、天高く聳え立つ巨大な塔があった。
「知恵……俺の得意分野と言っても過言じゃないな」
「……あの、いかにも頭の悪そうな格好で言われても……」
メグミの指摘は相変わらず厳しい。
「でもこれ、どうやって中に入るのよ?」
「ほんとだー? 入り口がないよ!」
キョウコが言う通り、塔の周辺をぐるりと回ってみるが、入り口らしきものがまったく見当たらない。
三百六十度すべてがただの壁になっているのだ。
「なるほど。中に入るところから試練は始まっているということだな」
変わったものがあるとすれば、塔の近くに立っている石像だろう。
七、八歳くらいの少年の像だ。
「……み、見てください。ここに、ヒントらしき文言が……」
メグミに言われて像の台座に注意を向けると、そこには確かにそれっぽいことが書かれていた。
『我、試練の闇に覆われし刻、知恵の道を示さん』
「……どういう意味でしょう……?」
「全然わかんなーい」
「闇っていうことは、もしかして夜まで待たないといけないってこと?」
首を捻って考えるJK三人だが、なかなか答えらしきものに思い当たらない様子。
「はっ、随分と簡単だな」
「えっ? あんたこの意味が分かったの?」
「まぁ見てろって」
「すごい!」
「……そんな格好してるのに……」
彼女たちの称賛の視線にお尻を向けると、俺は塔へと近づいていく。
「ちょっ、だから前に立たないでって……」
そして拳を強く握り締めると、
――ずごおおおおおおおんっ!!
壁をぶん殴って穴を開けた。
「「「えええええええええっ!?」」」
「どうだ。入り口が現れたぞ」
「どうだも何も物理で作っただけじゃないの!? 問題は!? さっきの問題、解けたんじゃなかったの!?」
「問題が解けたとは一言も言ってない」
「ていうか、この壁、殴って破壊できるようなものなの……?」
俺が開けた穴から塔の中へ入る。
『ちなみに塔の作る影があの少年の石像を覆ったとき、少年が動き出して外壁にある入り口を開くためのスイッチの場所を教えてくれる仕掛けになっていました』
いや分かってたけどね?
ほら、その時間まで待つの面倒だしさ?
「さて。今度はどんなマスコットが出てくるんだろうな」
と、あんまり期待せずに呟いたときだった。
「真実はだいたい一つくらい!」
こ、このフレーズは……!
まさか!
「名探偵コ○ン!?」
そうして俺たちの前に現れたのは、蝶ネクタイに半ズボン姿の―――おっさんだった。
太っているし脂ぎっているし、なんかブヒブヒ言ってそう。
あと禿げてる。
「これのどこがコ○ン君なのよ!?」
「もしかして未来のコ○ン君?」
「さすがにあんな風にはならないでしょ!?」
「……どう見ても事件を解決してくれるというより……法を犯すタイプの人です……」
こら、メグミ。
それは偏見だ。
……たぶん。
「吾輩はコ○ンではないでござる! 頭脳は大人、下半身も大人! その名は江路川コカン!」
いや全部大人じゃねーか。
しかもなんで苗字が日本人っぽいんだよ。
あと〝ござる〟口調って。
突っ込みどころが多過ぎて間に合わん。
「常に理性と欲望が高い水準でせめぎ合っている! それが吾輩なのでござるよ!」
「ねぇ、アンアンマンと言い、何でこんな変な奴ばっかなの……?」
「……この試練を作った人、頭おかしい……」
散々な言われようだが、コカン君は気にした様子も無い。
さすがあの見た目だけあって、ディスされるのには慣れているのかもしれない。
「それにしてもよく塔内へ入ることができたでござるな。物理で入り口を作る。うむ、それも立派な答えでござる! 真実はだいたい一つくらいだが、答えは一つとは限らないのでござるよ!」
おっ、何か意外とまともなこと言ったぞ。
「知っての通り、ここは〝知恵の塔〟! お主らの頭脳を鍛えるための場所でござる! 強大な力を持つ魔王を倒すには知恵も必要不可欠でござるからの!」
それを聞いて、アカネが「うへぇ……」と舌を出した。
「あたしの苦手な奴だ~。でもメグっちは得だよね?」
「そうそう。恵美はいつもテストで学年一桁だし」
「べ、勉強とは違うと思うよ……」
テストなんて懐かしいな。
「ちなみに俺も高校時代はずっと一桁だったぞ」
「うそ? あんたが?」
「点数がな!」
「……よくそれで卒業できたわね……」
「単位を取る方法は一つとは限らないんだよ」
そう、真実は一つでも答えは一つではないのだ。
「では早速、最初の試練を与えるでござる! その扉に入るでござる!」
コカン君がコカンをもっこりさせながら叫んだ。
ござるござるウザいし何でもう勃ってんだよと思いつつ扉を開けてみる。
するとその先にはさらに二つの扉があった。
ただし扉にはそれぞれ○と×が書かれている。
「いわゆる○×ゲームでござるよ! これから吾輩が問題を出すでござるから、正解だと思った方の扉に入るでござる」
なるほど。
何となく知恵っぽい試練だ。
「それでは第一問でござる。『A君、B君、C君の三人が、股間の大きさを比べてみました』」
「どんな状況よ!?」
「いや、やるだろ? ほら、女が胸の大きさ比べたりするみたいに」
「し、しないわよっ!」
A君「僕のが一番大きかった」
B君「僕のが一番小さかった」
C君「僕のはA君より大きく、B君より小さかった」
「『この三人の内、正しいことを言っているのは二人だけで、一人は嘘を吐いている。そして、それはC君である』 ……さて、これは○でござるか、それとも×でござるか?」
つまり、嘘つきがC君だと思えば〇の扉を、別の二人のうちのどちらかだと思えば×の扉を開けろということだな。
「ふん、これもまた簡単な問題だな」
俺は高らかに答えを告げた。
「俺のが一番大きい!」
「そんなこと誰も聞いてないわよ!?」
「確認してみるか?」
「しないから! そもそも比べようがないでしょ!? だからお盆外そうとするなぁぁぁぁっ!」
キョウコは溜息を吐いてから、少し自信ありげに言った。
「堂々と自分が一番大きいと言ってるAが怪しいわね」
「……京子ちゃん、そういう心理の問題じゃなくて、論理パズルだよ、これ……」
「○×なら勘でもいけるよ!」
「あっ、ちょ、茜!?」
アカネが勝手に×の扉を開けてしまった。
『正解は〇ですね。A、C、Bの順で大きいです。つまりC君が嘘をついています』
だよな。
もちろんわかってたさ。
てかこれ、間違えると何が起こるんだろ?
「わっ、何かでっかいのがいる!?」
扉の向こうに待ち構えていたのは、巨大な亀のようなモンスターだった。
「ちょっ、何よあれ!?」
「タラクスか。亜竜の一種だな。つまり不正解だとこんな風に強い魔物と戦う羽目になるということか」
「その通りでござる! 倒さない限り、次の問題には進めぬでござるよ!」
キョウコとメグミがアカネをジト目で睨んだ。
しかし能天気なアカネはまったく気にした様子はなく、
「でも倒せばいいってことだよね!」
その通りだ。
ゴールする道は一つじゃないからな。
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