第110話 魔界の大公爵

 闘気に加えて、俺は自分にバフをかけまくった。

〈補助魔法・極〉スキルを持つ俺なら、ステータスは数倍に跳ね上がる。


「ならばもっと本気で行くのぢゃ!」


 魔王が魔闘気を使って拳を繰り出してきた。

 先ほどと同じように両腕で防御すると、今度は受け止めることができた。……骨が粉々に砕けたが。


 その後も魔王の苛烈な攻撃を受ける度、俺の骨が砕ける。

〈自然治癒・極〉でも修復が間に合わない。


 一方で、俺の攻撃はほぼ通じない。

 物理も魔法も。

 魔王の耐性値が強すぎるせいだ。


「これなら無視できるけどな」

「っ!?」


 俺は〈絶対切断・極〉スキルを使い、反撃した。

 どんな物でも絶対に切り裂く、物耐など完全無視の手刀だ。


 だが魔王はその危険度を察したのか、飛び下がって回避。

 勘のいい奴だ。


「くくく、まさかここまでやるとはのう」


 魔王は不敵に笑いながら、全身の魔闘気を両腕に収束させていく。

 うお、なんか必殺技っぽいのが来そうだぞ。


「これを出すのは久しぶりぢゃ! 〝魔闘殲滅波〟!」


 刹那、俺の身体は凄まじい衝撃に呑み込まれ、生命値が一瞬でゼロになっていた。


 やーらーれーたー。


 ……が、〈死神の目溢〉で即座に復活した俺は、後ろを振り返って唖然とする。


 ベルフェーネ城の一部が消し飛んでいた。

 それどころか向こうに見える山の山頂がごっそりと無くなっている。

 ベタベタなネーミングなくせに、なんて威力だよ……。


『マスターのネーミングセンスもどっこいどっこいかと』


 ギリギリ上を通過していったようで、ベルフェーネは生きていた。

 白目を剥いてまた失禁していたが。じょぼじょぼ。


 よくそんなにオシッコ出るよなー、と思うかもしれないが、俺がロードを繰り返しているせいであって、当人としては何度も漏らしている訳ではない。

 彼女の名誉のためにもそれだけは言わせてほしい。


 ――ロード。


 三度目のロードである。

 その後、先ほどとまったく同じ流れを繰り返すと、魔王は再び恐るべき必殺技を使ってきた。


「〝魔闘殲滅波〟!」


 だが初見ならともかく、二度目の今回は対処できる。

 こういう攻撃は、そっくりそのままお返しするに限る。


「〈反転・極〉」


 魔王の必殺技が反転し、放った魔王自身へと返っていった。







「ぬあー、まさか初見であれを返されるとは思わなかったのぢゃ!」


 どこか楽しそうに魔王は姿を現した。

 自身の必殺技の直撃を喰らったはずなのに、身体がボロボロになってはいるものの普通に生きている。


 本当は初見じゃないんだけどな。


「ていうか、あれを喰らっても死んでないのかよ」

『いえ、生命値は半分ほどに減っています』


 でも半分か。

 さっき俺は一瞬で死んだってのに。


『咄嗟に二発目の〝魔闘殲滅波〟を放って相殺しようとしたようです。……相殺し切れず、ダメージを受けた上に、余計な魔力と闘気を消耗してしまったようですが』


 ナビ子さんの言う通り、どうやら魔王は力を使い果たしてしまったらしく、


「今日はなかなか楽しかったのぢゃ! 余とまともにやり合える相手など、何百年ぶりぢゃろうの! 今度はぜひそっちから余の城に遊びに来るのぢゃ!」


 と、満足そうに言い残してあっさり去っていこうとする。

 ベルフェーネのことはもうどうでもいいらしい。


 てか、散々暴れるだけ暴れておいてもう帰るのかよ?

 そうはいくか。


 ――ロード。


「今日はなかなか楽しかったのぢゃ! 余とまともにやり合える相手など、何百年ぶりぢゃろうの! 今度はぜひそっちから余の城に遊びに来るのぢゃ!」


 そう言い残して魔王は去っていこうとする。


 ――ロード。


「今日はなかなか楽しかったのぢゃ! 余とまともにやり合える相手など、何百年ぶりぢゃろうの! 今度はぜひそっちから余の城に遊びに来るのぢゃ!」


 そう言い残して魔王は去っていこうとする。


 ――ロード。


『マスター、遊んでないで帰すのか戦闘を継続するのかはっきりしてください』


 いや、なんか楽しくなっちゃって。

 まぁこっちとしても別にあえて戦う気はない。

 大人しく帰ってくれるならそれでいいだろう。


「今日はなかなか楽しかったのぢゃ! 余とまともにやり合える相手など、何百年ぶりぢゃろうの! 今度はぜひそっちから余の城に遊びに来るのぢゃ!」


 またもそう言い残して今度こそ去っていく魔王を見送る。

 にしても嵐のような奴だったな。

 魔王と言っても中身は完全に子供だったし。見た目もだが。


 俺はベルフェーネの方へと向き直った。


「た、助かった、の……?」


 じょぼじょぼじょぼ。

 危機が去って気が緩み、ついでにお股の方も緩んでしまったのか、また失禁していた。


「ああ。魔王の脅威を退けてやったぞ」


 ちょっと予想より強過ぎたけどな。


『ステゴロで倒すには最低でも魔王の半分のレベルが欲しいところですね』


 せめて150くらいは必要ってことか。


「さて。もう十分に領地が広がったし、そろそろ俺、帰ってもいいよな?」


 俺はベルフェーネに確認する。

 約束は果たしたはずだ。

 しかし転移魔法を使って地上に帰還しようとすると、


「ちょ、ちょっと待ってよ!」


 なぜかベルフェーネに呼び止められてしまう。

 彼女は目尻に涙を浮かべ、縋り付いてくる。


「お願い! 行かないで!」


 まるで別れを告げた恋人に、必死に追い縋るシーンみたいだ。

 ただしオシッコの匂いがするが。


「また魔王が来たらどうするのよっ!?」

「もう来ないんじゃないか?」

「来るわよ! 絶対! 今度こそあたし殺されちゃう!」

「大丈夫大丈夫。死んだら生き返らせてやるから。じゃあな」

「お願いだってばっ! 行ったら泣くから! 泣いちゃうから!?」


 もう泣いてるぞ。


「うわあああ~~~んっ、おいてかないでええええ~~~っ」


 大声で駄々をこねる公爵級悪魔である。

 恐怖のあまり少し幼児退行してしまったのかもしれない。

 お漏らしもしちゃったしな……。


「そ、そうだわ! 良いこと思いついた! あたしの領地、全部あんたにあげるから!」

「え?」




 という訳で、そういうことになった。



 ____________________________

|            |     |         |

|            |     |         |

|            | ベリア |         |

|            |     |         |

|            |_____|         |

|            |               |

|            |               |

|    魔王      |        カルナ    |

|            |               |

|            |______         |

|            |      |        |

|            |      |        |

|            | スーモ  |        |

|            |      |        |

|            |      |        |

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 さらにベルフェーネから爵位を譲り受け、俺は公爵級悪魔となった。悪魔じゃないが。


 だがすぐに支配下に置いている他の公爵級と同列ではおかしいという声が上がり、公爵から大公爵へと格上げされることに。


 その後、ベリア公爵とスーモ公爵から、大量の土産とともに使者が来た。

 どちらも要約すると「お願いだからうちに攻めて来ないで」という嘆願だった。

「いいよー」と頷いてやると、泣きながら喜ばれた。

 別にこれ以上、支配領域を拡大するつもりもないしな。


 さて、そうして俺は魔界の大公爵となった訳だが。


「じゃあ、後のことは任せたぞ」

「りょーかい」


 例のごとく、分身を置いて地上に帰ることにした。

 ……こっそりと。

 領主が不在だとバレると色々と問題が起こりそうだしな。

 ベルフェーネも泣き付いてくるだろうし。


「何かあったら呼んでくれ。魔王が来たときとか」


 そして転移魔法で地上へ。


「……ん? ここはどこだ?」


 しかしなぜか見知らぬ場所に出てしまった。


『どうやら今までマスターがいたところとは別の大陸のようです』

「何でこんなところに?」

『魔界と地上の間には時折、強力な魔力波が発生することがあります。その影響を受けて、転移先がズレてしまったのかもしれません』

「へー。まぁいいや。もう一回、転移すれば……」

『マスター、比較的近い場所から面白い魔力を感じます』

「面白い魔力?」

『どうやら何者かが、異世界人を召喚するための魔法を使おうとしているようですね』


 それは面白そうだ。

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