第74話 オークロードの豚骨ラーメン

「こ、こいつのメシなんて、食いたくねぇのにっ……食いたくねぇのにぃぃぃ……っ!」


 そんなことを言いながら、クロは今日もまた俺のところへとやってきた。

 もはや当初の趣旨などどこへやらだ。


 くくく、今日も裸に剥いて(食の)快楽に溺れさせてやるぜ……。

 いつまで強がりが持つかなぁ? げっへっへ。


「で、今回の高級食材はこいつだ」

「って、おいおい、何でこんな化け物がっ!?」


 俺がドラゴン娘たちを連れてやってきたのは、農場に併設された厩舎だった。

 その一番奥にそいつはいた。


 身の丈五メートルはあろうかという巨大な豚頭の魔物。

 体重は軽く十トンを超えている。

 もちろんただのオークではない。


 オークロード。


 ごく稀にしか出現しないオークの最上位種族だ。

 その危険度はSに指定されており、現れれば一国が滅びるレベルの危険な魔物である。

 そいつが今、厩舎の最奥の檻の中で横になって眠っていた。


 神竜であるクロも少し怯えた様子で訊いてくる。


「ど、どうしたんだよこいつ?」

「捕まえた」


 レイン帝国領内に偶然現れたので、俺が討伐に向かったのだ。


「オークの肉って、ものによっては結構美味いからな。滅多に出ない魔物だし、せっかくだから食材に使おうと思ってテイムした」


〈魔物調教・極〉スキルがあっても、さすがに危険度Sの魔物ともなるとテイムにはかなり苦戦した。


「その発想、ドラゴンのオレが言うのも何だと思うが、ちょっとおかしいと思うぜ……?」


 ちなみにオークロードは全世界で同時に一体しか発生することがないそうだ。

 なのでこいつを生存させておくならば、どこかでまた新たなオークロードが生まれ、甚大な被害がもたらされるなんてことを防ぐことができるのである。一石二鳥だな。


 こいつにはこの農場で収穫した穀物を中心に食わせていた。

 オークは豚と同じで雑食のようだが、動物性のものを与えると肉が硬くなって味が落ちてしまうのだ。質の良い脂肪を付けるには特に麦類がいいようだな。


「ちょっと肉と骨、貰ってくぞ」


 そんな少々猟奇的なことを言いつつ、俺は時間魔法でオークロードの時間を止めた。

 さっと必要な部位を切り取ってから回復魔法をかけてやる。

 見る見るうちに欠損が修復していく。


 このやり方で半永久的に食材を確保することが可能なのだった。


「今日は何を作る?」

「ラーメンだ」

「らーめん……って何だその間抜けそうな名前の料理はよ?」


 クロが訝しげに眉をひそめる。


「麺料理の一種だよ。って言っても、ドラゴンには麺文化すらないか」


 百聞は一見にしかず。

 という訳で、俺は早速ラーメン作りに取り掛かる。


 農場で収穫した小麦粉を使い、麺から作った。

 しっかりとしたコシに、もっちもちの歯応え。

 そしてよりスープの絡みやすいストレートの細麺に。


 スープは豚骨ダシだ。

 もちろんオークロードの骨を使うのである。

 特に膝関節の部分の旨味が強いため、これをメインとして使用。

 長時間じっくりと煮込んでその旨味成分を余すところなく抽出する。時間魔法で百分の一くらいに短縮できるが。


 そしてラーメンに欠かせないものと言ったらチャーシューだ。

 オークロードのロース肉を使い、専用の炉を使って外はカリッと、中はジューシーに。

 それを贅沢なほど分厚く切り取って、麺の上に投下する。

 さらに農場で採れたばかりの新鮮なネギを刻み入れ、この世界では珍しい海苔を添えるシンプルなトッピングで完成だ。


「じゅるじゅる」

「だらだらだら」


 できあがった豚骨ラーメンの濃厚な匂いを嗅いだだけで、シロとクロの口からはもう涎が垂れてきている。

 二人の前で俺は――――一人でラーメンを食べ始めた。


「うめぇぇぇぇぇぇっ!」


 スープが美味い!

 麺が美味い!

 チャーシューが美味い!

 何だこの最高のラーメンは!


「私も食べたい!」

「オレにも食わせろ!」


 シロとクロが涎を散らしながら躍り掛かってきた。


「待て」

「「ぎゃう!?」」


 だが二人は目に見えない障壁に激突して仲良く悲鳴を上げた。

 俺が作り出した結界に阻まれてしまったのだ。


「「なぜ……?」」


 まるで地獄のどん底に落とされたかのような愕然とした顔をして、二人は結界の前で立ち尽くす。


「いやさ、今まで何度か食わせてやったけど、よく考えたら完全なタダ飯喰らいだったよな?」


 俺の正論に、シロとクロが「うっ」と声を漏らした。


「まぁ、クイーンミノタウロスのミルクとか、生命の林檎とかは収穫を手伝ってもらったからまだいいとしても、今回は本当にお前ら何もしてない」

「ぐっ」

「ぬぅ」


 仲良く喉を鳴らすシロとクロ。


「そんなわけで食いたければ何か面白いことでもやってみろ。そうだな……ペットだし、ペットらしく犬の真似でもしてもらおうか」

「ば、馬鹿なこと言うんじゃねぇ! オレらは神竜だ! 神竜が犬っころの真似なんざ――」

「わんわん! へっへっへっへ」

「――してやがる!?」


 シロはあっさりと犬に成り下がった。


「お座り」

「ばう!」

「伏せ!」

「わうん!」

「服従」

「わうーん!」


 腹を見せて仰向けに寝そべるシロ。完全に犬である。


「よーし、シロ。偉いぞ。食ってよし」

「ばうばう!」


 シロはラーメンに飛び付いた。


「~~~~~わわわわわんっ!」


 犬のまま喜んでいる神竜。

 なんかすげぇ面白い。

 犬――じゃない、ドラゴンだけあって熱いスープも平気らしく、がつがつ食っている。


「どうだ? クロも食べたくないか?」

「ぐぬぬぬぬ……」

「はい、三回回ってワン」


 クロはしばし葛藤していたが、結局美味しそうな匂いには逆らえず、ぐるぐるぐるとその場で回って「わ、わん!」と咆えた。


「お座り」

「わ、わん……っ!」

「お手」

「ぐぐぐ……わ、わん……」

「ちんちんかいかい」

「付いてねぇよ!」


 クロはがっくりと項垂れた。


「く、屈辱だっ! このオレがこんなっ……こんな犬みたいなマネを……っ!」

「よし、食っていいぞ」

「わうん!」

「いや、もう犬の演技はいいから」


 唇を油でテカテカにしながら、二体のドラゴン娘たちはラーメンに熱中する。


「何だこの肉は!? めちゃくちゃうめぇ! こんな肉、今まで食ったことねぇぞ!?」


 チャーシューに驚愕しているクロ。


「オレが今まで食ってた肉は肉じゃなかったのか……」

「いや肉は肉だろ」


 それから二人はラーメンを四度もおかわりした。

 さて、せっかく良い豚肉があるんだし、ぜひあれも作りたいな。


 用意したのはやはりオークロードのロース肉。

 それに塩コショウを適量、小麦粉をまぶして軽くはたき落とすと、溶き卵に潜らせてからパン粉を付ける。

 そして油でカラッと揚げると……そう、トンカツのできあがりだ。


「はぐはぐはぐはぐ!」

「うっめぇぇぇぇぇっ!」

「おかわり!」

「おい、ズルぃぞ! オレもオレも!」


 ラーメンを一人五杯も食ったというのに、二人の食欲は留まるところを知らない。

 さらにトンカツを五枚もぺろりと平らげてしまう。

 ちなみに二人とも素っ裸だ。


 しっかし、よくそんなに脂っこいものばかり食えるな。

 まぁドラゴンだから平気か。


「焼いた肉と揚げた肉は食ったし、次は燻製肉かな」


 という訳で、オークロードの腸を使って今度はフランクフルトソーセージを作ってみた。


 噛むとパリッと良い音を立てて皮が破け、中から染み出てきた肉汁が口の中へと広がっていく。

 美味い!


「食べたい!」

「オレもオレも!」

「じゃあ、ご主人様の(作った)アツアツでぶっとくて長いモノ(=ソーセージ)を(口に)挿れて欲しいの……ってオネダリしてみろ」

「ふ、フザケンな! そんなこと言えるわけが――」

「ご主人様のアツアツでぶっといアレを挿れて欲しいの」

「――何の躊躇もなく言いやがった!?」


 美味い物のためなら何だってやるのがシロの生き様である。


「じゃあ……入れるぞ、シロ」

「ん、来て……」


 俺は彼女の中に(ソーセージを)挿れてやった。


「ん~~~~~~~~~~~っ!」


 身体を仰け反らせ、シロは逝ってしまう。美味し過ぎて。


「さぁて、次はクロの方だな?」


 俺は下衆の笑みを浮かべ、ソーセージを彼女の顔の前でちらつかせる。


「くっ……」

「なぁ欲しいんだろ? コレが欲しいんだろ? 正直に言ってみろよ。ご主人様のアツアツでぶっとくて長いモノを挿れて欲しいの、ってなぁ」

「くううっ……ほ、欲しくなんかねぇ……欲しくなんてねぇのにぃ……」


 そう言いながらも、すでにクロは濡れていた。

 ……涎で。


「どうやら身体の方は正直のようだな?」

「ご……ご主人様のっ……あ、アツアツで……ぶっとくて長いモノっ……い、い、い、挿れて欲しいのぉぉぉぉぉぉっ!」


 俺はクロの中にソーセージをぶち込んだ。


「ああああああああああああんっ!」






 やっべー、餌付け超楽しー。


『……もはや餌付け以上のナニカになっている気がしますが』

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