第76話 神鳥も餌付けしてみた
茜色の髪の少女が、俺の作ったオムレツを食べて目を見開いた。
「美味ぁぁぁいっ! これ、すっごく美味いよ! 一体、何なのさこの美味い食べ物は!? って、ボクの卵じゃんかぁぁぁっ! 何で自分で産んだ卵を食わなくちゃなんな――」
「ほら、次は生クリーム付けたの食ってみろ」
「――美味ぁぁぁぁぁいっ!?」
口の中に入れてやると、少女の怒号が感激の声に代わる。
『マスター、まずこの少女が何者なのかを確かめませんか?』
いや、とりあえずオムレツを食ってからだ。
『……』
それから俺とシロクロに謎の少女を含めた四人(?)はオムレツを食いまくった。
途中で二回も新しく作ったので、全部で三個も巨大卵を使ってしまった。たぶん普通の卵に換算すると二万個近くにはなるだろう。四人で分けたとは言え、カロリーやべぇ。
ソファにもたれ掛って、大きなお腹をさすりながら一服する。
「げぷ……」
「おぅ、さすがにもう食えねぇぜ……」
「あー、食った食った。美味しかったなぁ――――って、違ぁぁぁぁうっ!!」
妊婦みたいなお腹をした少女が立ち上がった。
「何でボクは普通に馴染んでるんだよ!?」
自分で自分にツッコんでいる。
「誰、この人?」
「そういや、いつの間にかいやがったよなぁ」
シロとクロが今さらながら少女にのんびりと興味を示す。
「ボクは伝説の神鳥、ロック鳥だよっ!」
茜色の髪を振り乱し、少女は叫んだ。
どうやらあのロック鳥、シロたちと同じように人化することができたらしい。
鎖で繋いでおいたのだが、身体が小さくなれば簡単に抜け出せるしな。
ちなみに彼女の見た目は十四、五歳くらいの女の子で、シロと同じくらいだ。
まだ幼鳥の段階なのかもしれない。
「ボクの卵を返せ!」
「いや、普通に自分で食ってたし」
「う、うるさぁぁぁい!」
少女は悔しげな涙目で地団太を踏む。
「だいたいあの卵、無精卵だし置いておいても腐るだけだろ。勿体ない」
「名前を付けて可愛がってたのに!」
名前付けてたのか……。
「大丈夫。卵たちは私たちの血肉になった」
「そうそう、オレらの中で生き続けるぜ」
「そういう問題じゃないでしょ! てか、そもそも誰だよ君たちは!? 神鳥のボクに馴れ馴れしくしやがって!」
「ん、同じ飯を食った仲」
「あれボクの卵らからねっ!?」
少女はもう怒ったぞとばかりに神鳥の姿へと戻る。
おい、室内で変身したら狭いだろ。
「鳥肉、じゅるり」
「あいつ照り焼きにしようぜ!」
「クエエエエッ!?(ボクまで食べる気!?)」
シロとクロはもはや伝説の鳥すらも食材にしか見えなくなっているらしい。
「クエッ、クエッ、クエエエエッ!(焼き尽くしてやる!)」
ロック鳥が体内から炎を吐き出そうとする。
「おいやめろ。コテージを全焼させる気か」
「グエッ!?」
俺は再びロック鳥をノッキングした。
「何で人間がそんなにあっさりとボクを無力化してるんだよっ!? おかしいでしょ!」
意識を奪わず、身体の動きだけを封じるよう調整したため、ロック鳥は床に倒れたまま喚いていた。ちなみに人化してまた少女の姿に戻っている。
「ん、カルナだから」
「こいつを人間という枠組みで考えたらダメだと、最近ようやくあたしも悟ったぜ」
「ていうか、君らは何なのさ!?」
ロック鳥の誰何に応じて、シロとクロが竜化した。
「神竜じゃん!? しかも仲が悪くて有名な白輝竜と黒輝竜だし!」
目を見開いて驚愕する神鳥少女。
シロとクロはまた人化する。
「ん。でも今は揃ってカルナのペット」
「ああ、仲良くこいつのペットを――って、違ぇよ! オレはこいつに飼い慣らされた覚えなんてねぇ!」
「クロ、ここにソーセージがあるんだが、欲しければ三回回ってワン」
ぐるぐるぐる。
「わん!」
「よしよし、偉いな。食べていいぞ」
「わおーん!」
クロは嬉しそうにソーセージに齧り付いた。
「完全に飼い慣らされてるよねっ!?」
少女が全力でツッコミを入れてくる。
そうです。もうクロちゃんは完璧に餌付けされてます。
「安心しな、クー子」
「なにその名前っ!? 変な呼び方しないでよ!」
「君もこれからしっかり餌付けして、俺無しでは生きられない身体にしてあげるからね?」
「ひ、ひいいいっ!?」
「どうだ、クー子? もっと欲しいか?」
「ほ、欲しいっ……もっと欲しいよぉっ……」
クー子は艶めかしい吐息を漏らしながら、必死に懇願してくる。
「おいおい、自分のアレでそこまでイってしまうなんて、お前は何て変態なんだ」
「うぅぅ……何でそんないじわるするんだよぉ……」
俺はそんなふうに焦らしながら、彼女の口の中にソレを入れてやった。
「ん~~~~っ! 美味しぃぃぃぃぃっ!」
クー子が幸せそうな声を上げた。
「何なのこの美味しい食べ物! えっ、プリンって言うの!? すごい! ボクの卵がこんなに美味しくなるなんて!」
神鳥の卵料理の第二弾としてプリンを作ってみた。
あのクイーンミノタウロスのミルクも使用。二つの最高級食材が凄まじい相乗効果を発揮して、究極の味を実現していた。
クー子はこれであっさりと陥落した。
「こんなに美味しいものを作れるなら、ボク幾らでも卵を産むよ!」
神鳥による採卵鶏化宣言である。
「よし、これで最高級の卵が半永久的に手に入るぞ」
卵は万能食材だ。
神鳥の卵を使えるとなると、俺のレシピがさらにグレートアップするだろう。
「クー子は食べない?」
シロがじゅるりと舌を鳴らす。
「さ、さすがにそれはやめてよっ!?」
「試してみるか」
「ひぇぇぇぇっ!?」
オークロードにしていたやり方で、俺は神鳥から肉を貰った。
時間が停止している間に終わるため、当人はまったく痛くないし、認識もできない。
「あれ、何が起こったの……?」
目を丸くしているクー子を横目に、俺は早速その肉で料理を開始する。
照り焼き、から揚げ、チキン南蛮、タンドリーチキン……などなど。
米があれば親子丼も作ったんだけどなー。
生憎まだ俺はこの世界で米を入手できていない。
「うまうまうま!」
「うめぇぇぇぇっ!」
「美味しい! 何これ!? えっ、ボクのお肉!? 共食いじゃん! でも美味しいからいいや!」
ロック鳥のお肉いけるな。
三匹からの評判もいい。
普通の鶏肉よりもずっと美味く、名古屋コーチンにも匹敵するジューシーさ。そして弾力性があって、歯応えがある。
こうして俺は美味い鳥肉も確保することができたのだった。
「で、勝負の結果はどうなったんだ、クロ?」
「え? 勝負って何の話だ? それより次は何を食わせてくれるんだっ?」
クロは当初の目的を完全に忘れていた。
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