第125話 ヌーディストダンジョン

「やばい……俺は今、素晴らしいアイデアを思いついてしまったかもしれない」


 ティラが半眼で見てくる。


「どうせまた頭のおかしいやつですよね?」


 頭がおかしい言うない。


「それは――」

「言わなくていいです」

「それは――」

「言わなくていいですって」


 俺は言った。『言うんですか』



「――ヌーディストダンジョンだ!」



 ヌーディストビーチのダンジョンバージョン。

 すなわち、全裸でしか入ることができないダンジョンである!


 裸でダンジョンを攻略するエレンを見ていて思いついた。


「俺、天才かもしれん……!」


 これなら合法的に全裸を拝めることができる!


「……最悪なアイデアですね」

「そもそも服を着ていることが異常なんだ! なぜ性器を疚しいものだとして隠すのか! 裸を恥ずかしいと思うその思考こそが恥ずかしい! 人は本来、裸で生きるものなんだよ! それこそが自然だ!」


 俺は声高らかに訴える。


「カルナ様の言う通りですわぁぁぁっ!」

「ん。カルナは正しい」


 ルシーファとシロが賛同してくれた。


「……確かに、一理あるのだ」

「ちょっ、エレンさんまで!? 早く正気を取り戻してください!」


 そんなわけで、俺は早速、ヌーディストダンジョンを作ることにした。


 入り口に結界を張り、衣服を脱がなければ結界を通り抜けられないように設定。

 武器はいいが、防具はダメだ。

 ただし靴や靴下は問題ない。


 ダンジョンは全十階層。

 エレンが攻略したダンジョンを流用して、階層ごとに特徴を出す。


 せっかくだしプールとか温泉も作ろう。

 むしろ雪山のフロアなんかは、ずっと温泉に浸かりながら進んで行けるようにすればいいかもしれない。

 だって裸だし。寒いし。


 所々に食堂や酒場、休憩室なども用意しておこう。

 もちろんすべて裸でしか利用できない。


 てか、もはや完全にスーパー銭湯とか健康ランドだよな、これ。

 しかも無料の。

 そもそも、そういう感覚で利用してもらった方が入りが良さそうだ。


 各所に宝箱を配置し、稀少なアイテムを入れておく。

 ただし防具以外。

 他ではなかなか手に入らないアイテムを入手できるということが、このダンジョンのウリの一つである。


 そうだ。大人の玩具なんかも入れておこう。


 しかし何と言ってもこのダンジョン最大のアピールポイントは、クリア報酬だ。



【イケメンの王様と結婚できます】



『マスター、イケメンの王様とは?』

「もちろん、俺!」

『……』


 おい何で無言になる?


「どこからどう見てもイケメンだろ、ほら」 


 俺は宣伝用に作ったポスターを見せる。

 そこには爽やかに微笑む超絶イケメンが写っていた。


「確かにイケメンですけど……これ、かなり修正が入ってますよね?」

「うむ……カルナとはほとんど別人なのだ」

「パパ?」

「ん? 誰?」


 いいんだよ!

 最近は写真の加工なんて当たり前だしな!

 俺も何度AVのパッケージに騙されたことがことか……!


『そもそもこの世界にはまだ写真も無ければ、加工技術もありませんが』


「王様というのも嘘ですよね?」

「それは本当だ! 俺は竜王だしな! 竜王だって王は王だろ!」


 うん。

 間違っていない。


 イケメンの王様の玉の輿に乗れる。

 この謳い文句に惹かれない女などいない! たぶん。


『本物を見たら幻滅するのでは?』

「心配は要らない。絶対にクリアできない難度にするからな」


 死なないけど、クリアはできない。

 そんな感じのダンジョンにするつもりです。


「あとは入り口を各地に作って、ダンジョンに転移できるようにすれば、世界中から女性冒険者が集まってくるって寸法だ。もちろん宣伝にも力を入れるぞ」






 というわけで、早速、作ってみましたヌーディストダンジョン。


 全十階層で、一見すると川だが実は流れるプールがある森林フロア、温泉の湧いている雪山フロア、飲食店やお土産屋さんも充実している遊園地フロア、まさしくヌーディストビーチの砂浜フロアなどなど、どこも大変楽しめる作りになっております。


 我ながらなかなかよくできたと思う。


 さらに予定通り入り口を各地に設けた。

 オープン日やダンジョンの場所を記載したポスターをあちこちに貼り、チラシも配っている。

 いずれも大都市から近く、アクセスもバッチリだ。


『自ら宣伝するダンジョンなど前代未聞です』

「怪しさ満載ですし……」





 そして――ついにオープン初日がやってきた。




   ◇ ◇ ◇




 レイン帝国。

 少し前までは暴君によって支配されていたこの国だが、とある英雄によって救われ、現在は賢帝ジーナによってかつてない平和と繁栄を謳歌していた。


 とりわけその王都の活況ぶりは著しい。

 暴君の治世には見られなかった活気が、今日も街の至るところに満ちている。


 そんな王都にある冒険者ギルドも、大勢の冒険者たちで賑わっているのだが、今日はいつにも増して騒がしかった。

 掲示板の前に大勢の冒険者たちが屯しているのだ。

「これ本当か?」「すげぇ!」「そんなところにダンジョンが……」などという声が聞こえてくる。


 依頼を貼りつけた掲示板ではなく、イベントの告知だったり、注意喚起だったり、クエストとは関係のない情報が貼られている掲示板だ。

 そのため普段はそれほど人が集まるような場所ではない。


 と、そこをちょうど通りかかる一人の青年がいた。

 二十歳ほどのイケメンである。

 背中に大きな剣を背負っていることから、彼も冒険者だろう。


「何があったんでしょうか?」


 訝しみながら、彼は近くにいた冒険者に話しかけた。


「あれを見ろよ」


 その冒険者が指差す方向へ、青年は視線を向ける。

 そこにあったのは、掲示板に貼られているとあるポスター。


「こ、これは……!?」


 瞬間、青年が目を見開く。

 そして何を思ったか、冒険者たちを強引に掻き分けて掲示板に近づくと、貼ってあったポスターを引き剥がしてしまった。


「あっ、おいこら!」

「何しやがる!?」


 冒険者たちの怒声が響くが、青年はそれを無視して全速力で走り去っていった。






「た、大変です!」


 血相を変えて部屋に飛び込んできたのは、Aランク冒険者のアルクだった。

 その手には、先ほど掲示板から剥がしたポスターが握られている。


「何だ、騒がしい」

「どうされたのですか、アルク殿」


 応じたのは、ギースとライオネルだった。


 そこは彼らが宿泊している宿の一室だ。

 カルナたちを追って旅を続けていた彼らは、ついにここ、レイン帝国の王都にまで辿り着いていたのである。


 アルクが興奮した様子で、そのポスターをテーブルの上に置く。


「見てください! これ、間違いなくご主人様ですよ!」


 実はそれはカルナが作成したポスターだった。

 そこには随分と美化された彼の写真が載っていて、


「は? これのどこがあいつだよ。全然違うじゃねぇか」

「確かに似てなくもないですが……」


 二人の反応に、アルクは声を荒らげた。


「何を言っているんですか!? どこからどう見ても僕のご主人様じゃないですか!」


 そこへ近づいてくるもう一人の男がいた。

 彼はテーブルの上のポスターを覗き込み、


「っ! 間違いない! これは彼だ!」


 と、叫んだ。


 もちろん四匹目の変態、紫苑である。


「ですよね!? ちゃんとご主人様の匂いもしますし!」

「ああ! 今にも彼の声が聞こえてきそうなくらいだよ!」


 有力情報のゲットに、喜びを爆発させるアルクと紫苑。


「……本当かよ? オレには別人にしか見えねぇんだが……」


 どうやら彼らの記憶の中では物凄く美化されているらしいなと、結論付けるギースだった。


「とにかく! このダンジョンに行ってみましょう!」

「ふふふ……待っていてくれ、カルナ君……」


 変態たちの魔の手が、カルナに迫る……。

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