第126話 お も て な し

 オレはギース。

 訳あって冒険者ギルドのギルド長を辞め、今は各国を旅している。


 その目的は、過去にたった一度だけ、ギルドの執務室で会ったエルフの少女と再び出会うことだ。


 彼女に肥溜めでも見るかのような目で見られたい。

 罵られながら雷撃を浴びたい。


 ただただその一心で、オレは旅を続けていた。

 最初は一人旅だった。

 だが道中で一人、また一人と増えていき、現在はオレを含めて四人のパーティとなっている。


 ジジイのライオネルは元々アルサーラ王国の王宮に仕えていた執事で、パーティの最年長。

 姫様の後を追い駆けて単身、王宮を飛び出したらしいが、戦闘力は無いに等しく、正直言ってただのお荷物だ。

 ただし何度も死にかけているにも関わらず、なぜかしぶとく生き残っていたりする。


 アルクはAランク冒険者の青年だ。

 イケメンでもあり、旅の途中、何度も若い女に言い寄られているが……その本性を知ると大抵は去っていく。

 わんわん、僕はご主人様のペットだから! なんて言われたら当然だろう。


 最後の一人は、つい最近になって新たに加わった紫苑という男。

 中性的で美麗な顔立ちをしており、アルクとはまた違ったタイプのイケメンである。

 ちなみに鬼族という極東の島国に住んでいる人種だ。


 紫苑との出会いの瞬間は今でも忘れねぇ。

 なぜか全裸のこいつが空から降ってきて、オレの顔に股間が――うげえええ。


 幾ら美男子だからって、オレにそういう趣味はねぇ。

 ほ、ほんとだぞ!?


 ライオネルは姫さんを、アルクと紫苑はカルナという野郎を探しているため、エルフ少女を追っているオレと行動を共にしていた。

 まぁ本当にこの三人が同じところにいるか、確証はねぇんだが。


 今はレイン帝国という国に来ていた。

 少し前までは暴君によって支配されて暗黒の時代が続いていたらしいが、どこからともなく現れた英雄によって暴君が倒され、今は新たな皇帝の下で平和を謳歌しているとか。


 で、その英雄こそがあのカルナという野郎らしい。

 都市のあちこちで話題になっている。


 しかし残念ながらすでにこの国を出た後だとか。

 今は次の目的地へと向かう準備を進めているところなのだが……。


 紫苑によれば、彼らは鬼族の国にいたらしい。

 なので海を越えてそこに行くべきか……。

 けど、もういない可能性もあるっぽいしなぁ。


 しかも頼りの(?)アルク犬が、「うーん……何だか物凄く遠くに行ってしまった気がします……」と唸っていて、まるで当てにならないのだ。


 そんなある日のことだった。

 アルクがポスターのようなものを手に、借りている宿の一室へと飛び込んだきたのである。


「ご主人様を見つけました!」








 オレたちはレイン帝国の王都からそう遠くない場所へときていた。


 そこは草原地帯であり、今までなら何もない原っぱがずっと広がっているだけだったそうなのだが……。


「本当にあるぞ……」

「いつの間にこんなところに……」


 それは門だった。

 草原の中にぽつんと立っており、冒険者たちが驚いているところをみると、本当に突如として出現したらしい。


 さすがは探検精神と度胸に溢れた冒険者たちだ。

 そんな怪しげな門だというのに、我先にと争い、次々と中へ入っていく。


「で、本当にあの向こうにあるダンジョンを攻略すればあいつに会えるんだな?」

「そのはずです!」


 オレが再確認すると、アルクは自信満々に頷いた。


 こいつがつい先日、どこからか持ち帰って来たのは、新しいダンジョンを開設したというポスターだった。


 正直、意味が分からねぇんだが。

 ダンジョンの多くは魔力が凝集して自然に作られるもので、お店のオープンみたいなノリでお知らせを出すようなものではない。


 まぁ人工的にダンジョンを作るのも、決して不可能というわけではないらしいけどな。

 昔の大魔導師なんかは、自分の力を示すためにダンジョンを作ったそうだし、実際、それが各地に残っていたりする。


「ともかく入ってみましょう!」

「そうですな」


 アルクに促され、オレたちはその門を潜った。

 もちろんいつものメンバーだ。


 門を通過する際、一瞬、嫌な眩暈がしたが、すぐにその向こう側へと抜けていた。




    ◇ ◇ ◇




 俺がチートスキル〈ダンジョンクリエイト・極〉で作った最高傑作――〝ヌーディストダンジョン〟。

 それがついにオープンした。


「ナビ子さん、客の入りはどうだ?」

『開場前から各地の入り口前に行列ができ、オープンと同時に大勢の冒険者たちが雪崩れ込んできました』

「はっはっは! やはりな!」


 各地の入り口を潜ると、まずは脱衣所になっている。

 そこで服を脱いでロッカーに預けなければ、ダンジョンへと繋がる扉を潜ることができない仕組みだった。


 きっと今頃は女冒険者たちが、引き締まった裸体を惜しげもなく晒しながら続々とダンジョン内に入って来ているところだろう。


『ところでマスター、なぜ触手モンスターの姿になっているのですか?』

「決まってるだろ?」



  お も て な し



『どう考えても下心百パーセントですが』


 さあ、俺がこの触手でたっぷり可愛がってあげるよ! げへへへ!


 俺は転移魔法を使い、ヌーディストダンジョン、いや、天国の中へと飛んだ。


 そして――






 男男男男。

 男男男野郎男。

 男男ガチムチ男男。

 男男男おっさん男男男。

 男男男男男野郎男男男男男。

 男男男男男男男男ジジイ男男男。

 男男筋肉男男男男男男男男男男野郎。

 男男男禿げ男男男男男男男全身コレ筋肉。

 男男おっさんおっさん男男男野郎男男男男男。

 男ムキムキ男男男男男男男男男男男野郎男ジジイ。

 男男男男男男男男オヤジ男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男ブ男男男男男男禿げ男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男逸物男男男男男男男男男男男男男男男男男男男肉体美男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男おっさん男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男ジジイ男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男胸筋男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男。






「何で男ばっかなんだよおおおおおおおおおおおおお――――っ!?」


 そこは地獄だった。


 右を見ても左を見ても、男、男、男。

 男がゲシュタルト崩壊するレベル。

 しかもどいつもこいつも全裸だ。


『そういうダンジョンにしたのはマスターかと』

「違う! こんなの違う! 俺の期待していた天国は一体どこにいった!?」

『むしろなぜ女性が集まって来ると考えていたのかが理解できません』


 くそうっ!

 こんなことなら男の入場を禁止しておくべきだった!


「は、はは……なかなか恥ずかしいな、ジョニー」

「そ、そうだな……しかしジョン、お前、随分と立派なモノが付いてるな」

「いやいや、そういうジョニーだって」


 こらそこ、男同士ではにかみながら股間比べをするんじゃねぇ!


「う、うおっ!? 何だこの触手モンスターは!? や、やめろそこはっ……ア――――ッ!?」


 ガチムチのおっさんがモンスターにやられている光景なんて見たくねぇ!


「ダメだこれは……完全に失敗だ……おえええ……」


 嘔吐しそうになりながら、俺がこの地獄と化したダンジョンを脱出しようとしたときだった。


「近い! 近いですよ! ご主人様がすぐ近くにいる感じがします!」


 どこかで聞いたことのある声が聞こえてきた。

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