第124話 ただいま信者募集中

「エレンさん! 騙されないでく――むぐむぐ!?」


 俺は余計なことを言おうとしたティラの口を塞いだ。

 ティラたんの唇が手に……!

 後でペロペロしよう。


「ふがはがふが!(絶対に洗ってください!)」


 何か言ったかな?


「ちなみに最後は都市フロアだ」

「ひ、人がいっぱいいるのだ……!」

「安心しろ。すべてNPCだ」

「えぬ、ぴーしー……?」

「簡単に言うと偽物ってことだな」


 西洋風の大都市を、多数のNPCが行き交っている。

 真っ裸なエレンに気づくこともなく、それぞれがそれぞれの役割を演じていた。


「だから安心して裸体を晒していいぞ」

「今、裸体って言ったのだ!? 本当にあたしは服を着ているんだよな!?」

「おっと、その通りだ。うん、ちゃんと服着てる着てる」


 だから手で隠す必要ないぞ。


「し、しかし……こ、これは……その……な、なんというか……」


 誰にも見られていないとしても、やはり恥ずかしいのだろう。

 エレンは身をよじって生まれたての小鹿のようにぷるぷる震えている。


「ちなみにダンジョンボスは都市の中央に見えるあのお城にいる。敵は兵士たちだから気を付けろよ。これもNPCだけど」


 そう告げた直後、道の向こうから武装した集団が姿を現した。


「いたぞ! 罪人だ! 捕えろ!」

「こっち見てるぅぅぅっ!?」

「大丈夫だ。向こうは裸だとは思ってない。戦うんだ」

「だとしてもこんな格好で戦うのは嫌だぁぁぁっ!」


 エレンはぷりぷりのお尻を見せて逃げ出した。


「追え!」


 全裸の少女を追い駆ける兵士たち。

 なかなかにカオスな光景だ。


「あああ! わたくしも! わたくしも全裸で大都市を駆け回りたいですわあああっ!」


 変態ルシーファが大興奮している。


「やりたいなら後でやらせてやるぞ」

「ほんとですの!? ちなみにNPCを襲っても大丈夫ですの?」

「残念ながら攻撃は不可能なんだ……服を脱がすこともできない…」

「それは残念ですわ……」

「……会話の内容、酷過ぎませんか?」


 ティラが半眼でツッコんでくる。


 その間にエレンは兵士に取り囲まれてしまっていた。


「くっ……これでは剣が抜けないのだ!」


 剣を振るおうとすれば、大事なところを手で隠すことができなくなる。

 葛藤するエレン。


「服を着てるから大丈夫だって」

「本当だな!? 本当なのだな!?」

「まさかエレン、その服が見えないのか?」

「いいや、見えている! 間違いなく見えているのだ! あたしは馬鹿ではないからな!」


 馬鹿じゃん。


 エレンはついに剣を抜いた。

 抜群のプロポーションを誇る裸体が、余すところなく白日の下に晒される。

 俺も股間の剣を抜きた(ry


「とああああっ!」


 エレンは兵士たちを蹴散らしていく。

 剣を振るう度に巨乳がぶるんぶるんと躍動し、もうこりゃ辛抱堪らん。


 すべての兵士を倒したエレンはキッと鋭い目を都市の中心にそびえる王城へ向けた。


「こ、ここまで来たからには、必ずボスを倒してやるのだ!」


 覚悟を決めたのか、エレンは胸や下半身を隠すことをやめて走り出した。

 次々と現れる兵士を吹き飛ばしつつ、城に向かって疾走する。


「だんだん気にならなくなってきたぞ……っ!」


 多くのNPCがいる大通りを真っ裸で通過するエレン。

 どうやら慣れてきたらしい。


「いや、むしろ……なんだか少しずつ快感になってきたのだ……っ?」


 エレンが目覚めようとしている……!


「ダメですエレンさん! そっちの世界に行ってはいけ――ふがふが!?」

「なんというか……すごく開放的なのだ……!」


 エレンは走りながら両腕を大きく広げた。

 まるで自分の裸をNPCたちに見せびらかせるかのように。


「そんなエレンにサービスだ」


 俺が仕様を変更すると、NPCたちの視線が一斉にエレンへと向いた。


「ふぁっ!? み、見られている!? あたし今、見られちゃってる!?」


 恥ずかしがりながらも、エレンは身体を隠そうとはしない。


「ああっ! だが……ハァハァ……この視線……ハァハァ……悪くない……」


 さらに俺はNPCたちに台詞をしゃべらせてみた。


「おい、あの女、裸だぞ」

「ひゅう! いい乳してやがるぜ!」

「あのお姉ちゃん、何で服着てないのー?」

「こら、見ちゃダメよ」


 裸だって言っちゃったよ。

 しかしそれには気づかず、エレンは恍惚とした表情で走り続ける。


「はぅっ……これっ、しゅごいぃぃっ……」


 飛び散る大量の体液(汗です)。

 エレンはもはや完全に目覚めてしまったようだ。


 やがて王城に辿りつき、着飾った貴族たちが行き交う美しい廊下を、やはり全裸でエレンは進んでいく。


「ハァハァ……こ、こんな格好で……王宮の廊下を歩くなんて……ハァハァ……」


 そしてついにボスのいる王の間へ。


 そこには大勢の兵士たちがいて、エレンは彼らの注目を一身に浴びることとなった。


「見られてるぅぅぅっ! こんないっぱいの人に見られちゃってるぅぅぅっ!」


 喜ぶエレンに、兵士たちが襲い掛かってくる。


「んぁっ! ぁっ! んんっ……! ふぁぁぁっ!」


 いやらしい嬌声を響かせながらも、兵士を圧倒するエレン。


「もう、らめぇ……あたし、おかしくなっちゃうのだぁ……っ!」


 すべての兵士をやっつけ、残ったのは玉座に腰掛ける王様だけだ。

 巨漢の王が剣を手に立ち上がる。


「まさか、王である余の前にそのような姿で立つ者がいようとは」

「あんっ……言わないでぇ……」

「貴様のその不敬なる行為、万死に値する!」


 そして、まったくもってコンセプトの分からないラストバトルが始まった。


 エレンが勝った。







 ダンジョンを無事にクリアしたエレンが戻ってくる。


「ハァ、ハァ……どうにか攻略したのだ……っ!」


 未だに息が荒く、目は熱に浮かされたかのようにトロンとしている。

 白い肌に浮かんだ汗が何ともいやらしい。


 そしてまだ全裸だ。


「いい加減、服を着せてあげてくださいよッ!」

「はっ!?」


 エレンも自分の格好に気付いて目を見開く。

 慌てて服を着ようとしたエレンだったが、何を思ったか、その途中で手を止めて――



「も、もう少し、このままで構わないだろうか……?」



 やはり目覚めていた。


「ダメに決まってますから――――ッ!」


 とティラが叫ぶが、一方でエレンを後押しするのは全裸教の信者たちだ。


「ん、やはり全裸は至高。我々は生まれたままの姿に回帰すべき」

「わたくしもっ、わたくしも脱ぎますわぁぁぁっ!」

「カルナ100%、再び参上ッ!」


 現在の信者は、シロ、ルシーファ、そして俺の三人。


 ただいま信者募集中です!


「だから脱がないでください――――ッ!!」

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