第123話 コスプレダンジョン

「痩せた! 痩せたのだ!」


 エレンが嬉しそうに飛び跳ねている。

 少し前までは同じことをすれば、地面が揺れ、贅肉が揺れ、息が切れていただろうが、今はとても軽快だった。


「安心するのはまだ早いぞ。隠れたところに贅肉が残っているかもしれない」

「の、残ってなどないぞ!」


 本人はそう主張しているが、しっかりとチェックせねばなるまい。


「ふむ。太腿は大丈夫のようだな。二の腕は……ここも問題ない」


 余計な肉は無くなり、しっかりと引き締まっている。


「ふふん、どうだ。完璧だろう? あたしは完璧に乗り越えたのだ!」


 ドヤ顔で胸を張るエレン。


「いや、一番落とすのが大半なのが腹周りの肉だ。見せてみろ」

「な、何でそんなところまで見せねばならないのだ!?」

「……やっぱ落ちてないのか」

「ちゃんと落ちてるのだ!」

「嘘を吐け。見せられないのはまだぶよぶよしてるからだろ?」

「そんなことはない! だったらその目で確かめてみろ!」


 エレンは服を捲ってお腹を見せた。

 可愛らしいおへそが露わになる。


「どうだ! お腹もこの通りだ!」

「おお、確かに贅肉がなくなってるな」


 太鼓腹が完全に引っ込んでいる。


「だが胸はどうだ? 胸はまだ贅肉だらけなんじゃないか?」

「だったらその目で確かめ――――って、その手に乗るかぁぁぁっ! そもそも胸は最初からすべて脂肪なのだ!」


 ちっ。

 さすがにアホエレンでも引っ掛からなかったか。


「……できれば胸の肉も落として、小さくしたいのだが……」

「その発言、全世界の貧乳女子に恨まれるぞ」


 そう。

 ついに彼女はダイエットに成功したのである。


「良かったな、エレン。これでデブンって呼ばれなくなるな」

「そんな呼び方していたのか!?」


 それもこれもダンジョンダイエットのお陰だ。

 このダイエット法、きっと現代日本で売り出したら大反響間違いなしだな。


『……どうやって売り出すのかに目を瞑ったとしても、問題だらけかと。何より地球人にはハード過ぎです』


 エレンはぶんぶんと剣の素振りを始めた。


「少し鈍ってしまったから、その分を取り戻さなければならぬ!」


 そんな彼女に、俺はちょうどいい訓練方法があると教えてあげる。


「また新しいダンジョンを作ったんだ」

「面白い! 今のあたしならどんなダンジョンでもどんと来いだ!」


 自信満々に胸を叩くエレン。


「……どう考えてもまたロクでもないダンジョンしか想像できないんですが……」


 横からティラの溜息が聞こえてきた。







 エレンが足を踏み入れた先にあったのは、鬱蒼と木々が茂る森林フロア。

 例のごとくスクリーン越しに俺たちは見ている。


「獣系のモンスターが出現するフロアだ」

「ふむ」

「なので、エレンもそれに相応しい格好をしてもらった」

「へ? って、何だこれは!?」


 エレンの頭にはケモミミが、お尻には尻尾が付いていた。

 さらに身に纏っている服はもふもふの毛皮になっている。


「獣人のコスプレだ!」

「こすぷれ……?」

「なかなか似合っているぞ」

「ほ、本当か? って、そんなことはどうでもいい! この手袋は何だ!? これでは剣が持ちにくいではないか!」


 手には肉球ぷにぷにの手袋を嵌めていた。


「外れないのだ!?」

「このダンジョンでは強制的に衣装が変更されるようになっている。当然、外すことはできない」

「何だと!? それでは訓練にならないだろう!」

「甘ったれるな!」

「っ!?」

「実戦で必ずまともに剣を振れる状況だと思うなよ! そうした状況に対応できてこそ、真の剣士と言えるだろう!」

「な、なるほど……! さすが師匠なのだ!」


 エレン、マジでチョロイぜ。


「……で、実際は何の意図があるんです……?」

「強いて言えば俺の趣味だ」

「そんなところだろうと思いました」


 森の中を獣人コスで駆け回るエレン。

 うん、なかなか可愛いな。

 いい静画がたくさん手に入りそうだ。


 森林フロアを攻略すると、次に待ち受けているのは雪山フロアだ。

 もちろん、ここでは別のコスチューム。


 ちなみに衣装は自動で変更される。

 エレンは真っ赤な服に身を包んでいた。


「こ、これは一体何なのだ……?」

「サンタクロースだ!」

「さんたくろーす……?」

「クリスマスになると、女は皆それを着て、好きな男に『今夜のプレゼントは、あ、た、し❤』と身体を捧げるんだよ。リア充死ね」


『マスター、それは本来のクリスマスではありません』


「な、なんと破廉恥な衣装なのだ……っ!?」


 戦慄するエレン。

 恥ずかしそうにしながらも彼女は白銀の世界を駆け回った。


 続いては砂浜フロア。

 当然のごとく水着である。


「ひゃう!? あ、相変わらず布面積が少なすぎないだろうか!?」

「問題ない問題ない」


 水着姿で砂浜を走るエレン。

 下からの素敵アングルや胸のアップ、いただきました!


 さらに病院フロア。

 エレンは白衣の天使の姿へ。

 最近絶滅を危惧されているナース服だ。


『病院フロアですか……もはや何でもありですね』


「なんだここは!?」


 ファンタジー世界の住人であるエレンは、見たことのない無機質な建物に戸惑っている。


 ……どうでもいいが、ドジっ娘属性のあるエレンには医療行為をしてもらいたくないな。

 ただしぜひ尿瓶だけはお願いしたいハァハァ。


 ちなみに病院フロアには、それらしいアンデッド系のモンスターが出現する。


「ぎゃああああっ! 来るな! こっち来るなぁっ!」


 そう言えば、エレンはお化けが怖い子だった。


「ぐすんぐすん……」


 泣きながら病院フロアを突破したエレンが続いて足を踏み入れたのは、屋敷フロア。

 ここではメイド服のコスチュームである。


「はい、カメラに向かって、『お帰りなさいませ、ご主人様』」

「何の話だ!?」


 さらに学校フロア。

 もちろん制服である(夏服)。


「さらに雨を降らす!」

『室内ですが?』

「関係ない!」


 エレンはあっという間にびしょびしょに。

 白い制服が透けて下着が見えている。


「そう! これだ! やはり雨に濡れたJKの透けブラこそが最強! ティラたんにもぜひやってもらいたい!」

「絶対にやりませんッ!」


 こうして七変化で俺の目を楽しませてくれたエレンは、ついに最後のフロアへと辿り着く。


「ここでの衣装は…………全裸だ!」

「それのどこか衣装ですか――――ッ!?」


 自分が真っ裸になってしまったことに気づき、エレンは慌てて大事な部分を手で隠した。


「な、何だこれは!?」

「それが最後の衣装だ!」

「裸ではないか!?」

「いや、そうじゃない。よく見ろ。ちゃんと服を着ている」

「どこがなのだ!?」

「そうか……エレンには見えないのか……」

「!?」

「それはな、実は〝馬鹿には見えない〟服なんだ」

「な、何だと……!?」

「つまり〝馬鹿以外にはちゃんと見える〟はずだ」


 もちろん真っ赤な嘘です。

 しかしアホの子であるエレンはそれを信じてしまったらしく、


「い、いや! よく見たらあたしにも少し見える……気がするのだ! う、うむ! これが最後の服か! なるほど!」


 むしろ〝馬鹿にしか見えない〟服と言ってもいいかもしれない。


「ちなみに最後は都市フロアだ」

「なっ!?」


 大勢の人々(NPC)が行き交う中へ、全裸のエレンは放り出されていた。

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