第2話 ガイドさんはとても優秀

 俺はついに夢にまで見た異世界にやってきた。


 さぁ、この世界を満喫しよう――と思いきや、見渡す限り、木、木、木、木、木。

 どう見ても森の中だった。


 どっちに行けばいいんだろうか。

 いきなりこんなところに飛ばされるとは思わなかったぞ。


『南東方向およそ五キロで森を抜けることが可能です。さらにそこから東に真っ直ぐ進めば、およそ十キロ先に町があります』


 不意に、脳内にそんな声が聞こえてきた。心に直接語りかけてくるってやつだな。


「誰?」

『申し遅れました、マスター。わたくしはマスターが取得された〈道案内(ナビゲーション)・極〉スキルです』

「おお、よろしくな」


 いわゆるガイドさんというやつだ。

 女の人の声で、淡々とはしているものの、どことなく人間味を感じさせられる。


「もっと機械的なものかと思ってたんだが」

『レベルの低い〈道案内〉であればそうです。ですがマスターは当スキルを極めておいでですので、このように擬似的な人格を有しております。情報量は元より、取捨選択して提供するなど、より高度な機能も備えております』


 なるほど。これはありがたい。


『罵倒や嘲笑といった、マスターへの言葉責め機能も備えております』

「その機能必要?」


 俺はドMか。

 だが少し気になる。いつか試してみよう。


「ところで俺、ちゃんと百個のスキルを獲得できているのか?」

『はい。間違いなく獲得しておられます』


 おっしゃ。

 まったく同じ説明を百回も受けるのはマジでしんどかったが、そんなこと全部のチートスキルを手に入れた俺の前途を思えば大したものではない。


 俺はこの百個のスキルを使って――――異世界をめいっぱい満喫してやる!


 ただちょっと不安もあった。


「大丈夫なのか? 女神にバレたら怒られたりしない?」

『通常、転生を担当する女神が百柱いらっしゃるというのは、あり得ないことです。ですが問題はないかと。なぜならマスターは、然るべき手順で獲得されておられます』


 ふむ。〈道案内(ナビゲーション)・極〉さんが言うのなら大丈夫なのだろう。


「しかし〈道案内(ナビゲーション)・極〉って長いな。何て呼べばいい?」

『お好きにお呼びください』

「じゃあナビ子で」

『……』

「あれ、反応なし?」

『……申し訳ありません。マスターのネーミングセンスが思いのほか酷く、しばしフリーズしてしまいました』

「意外と辛辣だな!?」


 早速、罵倒されたよ。

 結構いい名前だと思ったんだけどな。ナビ子。かわいいし。


「じゃあナビ子な」

『……あえてそのまま押し通すその姿勢に驚嘆します』

「おお、ありがとな!」

『いいえ、マスター。今のは褒めてません』


 まさかそのツッコミをしてくるとは……。

 ナビ子さん、なかなかやるじゃないか。


 がさがさ。


 そのとき、近くから木の葉が擦れる音が聞こえてきた。

 ん? 何かいるぞ?


 現れたのは豚の頭を持つ二足歩行の怪物――オークだった。


「おおおっ、マジで豚が二本の足で歩いてる!」


 って、感動している場合じゃない。

 俺は何の武器も持ってないし、服も向こうで着ていたもののままだ。


 一方のオークは、手に槍のようなものを持っていた。

 身長は百八十センチくらいあって、ガタイも良い。プロレスラーみたいな体格だ。


 つーか、最初はスライムとかゴブリンだろ? 何でいきなりオークなんだよ。オークって言ったら、こいつをソロで倒せば冒険者として一人前として認められる的な存在だよな?


「ちなみに俺の今のレベルは?」

『1です』

「レベル1ってオークを倒せる?」

『不可能です』


 やべーじゃん。


『もっとも、それは普通の人間のレベル1であれば、の話です」

「つまり?」

『まず〈鑑定・極〉を使って、オークを鑑定してみてください』

「鑑定って、どうやって……あ、できた」


 どうスキルを使うのかということも、どうやら頭の中にインプットされているらしい。


オークA

 種族:緑オーク族

 レベル:23

 スキル:〈槍技〉


 視界の端に文字が浮かび上がった。

 俺の知ってる言語じゃないのに、なぜか読むことができる。


『〈言語理解・極〉スキルを取得されているからです』


 なるほど。しかし不思議な感覚だな。


『もっと詳しく各アビリティを見ることも可能です』

「やってみる」


 生命:401/413

 魔力:31/31

 筋力:131

 物耐:137

 器用:76

 敏捷:98

 魔耐:48

 運:32


『今度はご自身のステータスを確認してみてください。鑑定でもいいですが、【ステータスオープン】と唱えていただいても構いません』


「ステーーータスッ、オーーープンッッッ!!!」


『そんなにカッコ付ける必要はありません』


 いいじゃんかよー。


カルナ 22歳

 種族:人間族

 レベル:1

 スキル:〈道案内(ナビゲーション)・極〉〈鑑定・極〉〈言語理解・極〉〈身体強化・極〉……


 スキルはちょっと多過ぎて見るのがしんどい……。

 各アビリティを確かめてみる。


 生命:9999/9999

 魔力:9999/9999

 筋力:999

 物耐:999

 器用:999

 敏捷:999

 魔耐:999

 運:999


「どこがレベル1!?」


 全部カンストしてるじゃねーか。


『スキルのお陰です。例えば〈身体強化・極〉スキルは、生命力に+9999、筋力、物耐、器用、敏捷値にそれぞれ+999されます』

「あ、うん。つまり素の能力とかどうでもいいわけね」

『ちなみにマスターは〈限界突破(リミットブレイク)〉スキルを持っているため、見かけ上はカンストしていても、実際にはそれ以上の数値です。〈鑑定・極〉であればその詳細を見ることも可能ですが?』

「今はいいや。とりあえず、あのオークさんをどうにかしよう」


 向こうも俺に気づいたようだし。

「ブヒオッ!」という豚っぽい雄叫びを上げて突進してくる。

 俺の胸目がけ、オークは槍を突き出してきた。


 よっと。

 俺はそれを飛び上がって軽々回避――ちょっと地面を蹴っただけで二メートル近く跳んでしまった――すると、オークの顔面に膝蹴りをぶちかました。


 ごぎゅっ。

 うお、何かやばい音がしたぞ!?


 首が後方に折れ曲がったオークが、物凄い勢いで吹っ飛んでいく。

 進行方向にあった大木にグシャッと激突した。


 確実に死んだな……。

 中身がアレして、かなりグロテスクな感じになってるし。


『オーバーキルです。400しかHPがない敵に、9999のダメージを与えてどうするのですか』

「ダメージまでカンストしやがった!?」


 しかし相手が魔物だったから良いけど、人間を相手にするようなときには手加減しないといけないようだ。


『魔物の素材を高値で売るためにも、できるだけ綺麗な状態のまま仕留めてください』

「へいへい。おっ、武器も鑑定できるのか」


・石の槍:攻撃力+13


 俺はオークが使っていた槍を拾い上げると、適当に振り回してみた。


 おおっ、すごい。

 まるで何年も使っていたかのように手に馴染むし、色んな槍技を身体に染みついているかのように繰り出せる。


『〈武神〉の効果ですね』


 あらゆる武芸に通じるようになるというスキルである。


『〈武芸〉というスキルは、汎用性が高い反面、特定の武器における効果は〈剣技〉〈槍技〉などの専門スキルに劣ります。ただし〈武芸〉の最上位スキルである〈武神〉となると話は別。専門スキルと何ら遜色のない効力を発揮します』

「そもそも武器を使う必要すらなさそうだけどな」


 大抵の敵は腹パンで仕留められそうだ。


「しかしこの森にいる魔物はオークだけか?」

『いいえ、マスター。その他、七種類ほどの魔物が棲息しています。ですが、オークの数が最も多いようです。なお、近くにオークの巣があります』

「オークの巣?」

『〈千里眼〉をお使いいただければ分かりやすいかと』


 言われた通り、俺は〈千里眼〉スキルを使ってみた。

 千里先でも見通すことが可能になるスキルだが、上空から地上を俯瞰するといった使い方も可能らしい。


 おおっ、しかも縮尺を変えたり、場所を移動したりできるぞ。

 まるでグーグ○マップみたいだ。


『念のため伏字にしておきました』


 おお、助かる。って、何でグーグ○マップ知ってんの!?


「かなり遠くまで見ることができるな」

『ちなみに〈鷹の目〉スキルであれば、せいぜい半径数百メートル。〈千里眼〉は軽くその数千倍の範囲まで見通すことが可能です』


 グーグ……じゃない、〈千里眼〉で森を見ていると、砦のようなものを発見した。


『その砦がオークの巣です』

「よし、行ってみよう。捕らわれのくっ殺騎士がいるかもしれないからな」

『この世界にそんな文化はありません』


 くっ殺騎士まで知ってるナビ子さん、すげぇ。

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