転生担当女神が100人いたのでチートスキル100個貰えた

九頭七尾(くずしちお)

異世界に来たぞ編

第1話 女神Aがあらわれた! 女神Bがあらわれた! 女神Cが(ry

「はじめまして、東城カルナさん」


 名前を呼ばれてゆっくりと瞼を開くと、目の前に女の子がいた。


 うお、何だこの美少女?

 アイドル? いや、アイドルでも見たことないくらい可愛いぞ?

 なんか全身から光が出てるしな。


 って、光? どういうことだ? 普通、人間の身体から光なんて出ねぇだろ。

 しかもすごい髪の色だ。

 まるで鏡のような煌めく長い銀髪。こんな髪、外国人でも見ないぞ。


 辺りは何もない、ただ真っ白いだけの空間。

 俺はそこにふわふわと浮かんでいて、少女もまた俺の眼前で宙を浮遊していた。


 一体何が起こっているんだ?

 俺が大いに困惑していると、その少女がにっこりと微笑みかけてきた。

 なんて眩しい笑顔だ……っ!


「私は女神――女神アーシアです」

「め、女神……?」

「はい。どうやらまだ混乱されていらっしゃるようですね。無理もありません。死というものは唐突に訪れるものですから」


 痛ましいものでも見たかのように、彼女は顔を少し俯け、眉尻を下げた。


「え……? 俺……もしかして、死んだのか……?」

「はい。残念ですが、カルナさんは亡くなられました。死に際のショックで覚えておいでではないかもしれませんが、交通事故により――」


「よっしゃぁぁぁぁっ!!」


 彼女の言葉を遮り、俺が思わずガッツポーズを決めながら叫んでいた。

 少女――いや、女神様か――は、ポカーンと呆気にとられたような顔をする。


「あの……亡くなられたのですよ?」

「だよな!? それで、これから異世界に行けるんだよな!?」

「え、ええ……」


 俺が前のめり気味に確認すると、彼女は少し身を引いた。


「いや、悪い。実は俺、異世界転生するのが夢だったんだ」


 エルフにドワーフに獣人にハーフリンク。

 スライムにゴブリンにコボルドにオーク。


 色んな種族がいて、色んな魔物がいて。

 それから魔法や伝説の武器なんかがあって。


 俺がイメージしているのは、いわゆる「剣と魔法のファンタジー世界」なんだが……俺は、昔からそんな異世界が好きだった。

 そしていつか死んだら、転生してみたいって思ってたんだ。


 まさかそれが本当に実現するとは。


「か、変わってますね……」

「確かにそうかもしれないな。で、どんな世界に行けるんだ? 何かスキルみたいなゲームっぽい設定はあるのか? できればエルフとかドワーフみたいなのがいる世界がいいんだけど。あ、もちろん魔法は必須だよ必須! 魔王はいてもいなくてもどっちでも構わないけど、人間たちと戦争とかしてない方がいいな! 俺あっさり死にたくないし!」

「……カルナさん」

「はい!」

「とりあえず、落ち着いてください」

「あ、はい」




  ◇  ◇  ◇




 女神様によると、これから俺が転生することになる世界は、まさしく俺がイメージしていたような剣と魔法のファンタジー世界らしい。


 転生するか、天国に行くか。

 一応、どちらかを選ぶことができるらしいが、当然ながら俺は転生一択だ。


 さらに、どうやら俺が今まで生きてきた世界の方が魂魄の質が高く、転生により生じる不均衡を是正するためとかなんとかで、好きな能力――スキルを一つ手に入れることが可能なのだという。


 つまりは転生特典というやつだ。


「どれにしようかな……」


 虚空に文字が浮かび上がり、獲得可能なスキル名とその簡単な説明文がずらりと並んでいた。

 さすがは転生特典というだけあって、どれもこれも強力そうなものばかりだ。


 当然、悩む。

 いずれも捨てがたいものばかりだし、この選択が俺の新たな人生を決定づけると言っても過言ではない。


「これ、やっぱり一つだけ?」

「一つだけです」

「そこをなんとか」

「一つだけです」

「いよっ、女神アーシア様超絶美女! ナイスバディ!」

「褒めても一つだけです」


 ぐぬぬ。


 俺は散々迷ったが、最終的には何とか一つのスキルを選んだ。

 まぁ仕方がない。

 これ一つでも怖ろしく強力なスキルなんだ。これ以上を望むのは贅沢というものだろう。


「カルナさんの新たな人生に、幸多からんことを」


 そして俺は女神様に見送られ、ついに念願の異世界へと旅立った――









「あんたが東城カルナね。あたしは女神。女神イスリナよ。今回はあんたの魂の導き手として選ばれたわ」


 ――はずが、気が付くと目の前に別の美少女がいた。


 しかもまた自分が女神だと言っている。

 どういうこと?

 困惑する俺の様子を、女神様は死んでまだ戸惑っている状態だと勘違いしたらしく、


「ま、状況が呑み込めていないのも無理もないわね。特に交通事故っていうのはほとんど突発的なものだし」

「は、はぁ……」


 こっちとしては曖昧に頷くことしかできない。

 ちなみに先ほどアーシアと名乗った温和な女神様と違い、かなり自尊心の強そうな女神様だ。


 それからイスリナは、アーシアとまったく同じ説明を聞かせてくれた。


「というわけで、転生特典として一つだけ、あんたはスキルを手に入れることができるわ」


 俺の目の前に、スキル名がずらりと並んだ画面が出現するのも同じだった。

 スキル名まで先ほど見たものとまったく一緒だ。


 だが、俺が先ほど選んだスキルの名前だけがない。

 あれは無かったことになってんのかな?

 それとも、すでに獲得済み?


 俺はちらりと女神イスリナに視線を向ける。

 ……黙っておくか。


 俺は二度目のスキル選びをスタートする。


 先ほどいったん目を通していたということもあって、今度はすんなり――とはいかず、また迷いまくってしまった。


 欲しいスキルが多すぎるんだよ。

 てか、そもそも全部で何個あるんだ、これ?


 ……九十七……九十八……九十九!

 さっきのと合わせると百個もあるのか!

 そりゃ時間もかかるだろう。

 文字通り人生がかかっているのだから。

 まぁ自動的に決まってしまうケースもあることを思えば、やっぱ選べる方がありがたいけどな。


 次がつかえているのか、女神様は「早くしてよ」とプレッシャーをかけてくる。


 俺は「もう決まるところ! 頭の中では決まった!」などと蕎麦屋の出前のようなことを言いつつ、じっくり時間をかけてスキルを選択した。


「……ようやく決まったみたいね。じゃあ、頑張って。あんたの新しい世界での活躍に期待しているわ」


 そうして俺は、今度こそ本当に異世界へ――








「わたくしは女神ウェルミスですわ」


 ――どうなってんの!?




  ◇  ◇  ◇




「あれ、おかしいね。君、選べるスキル一つしかないんだね」

「みたいだな」

「しかもそれ、使いどころが限られてて不人気なやつだね。うーん、どうやら君には才能がなかったみたいだ。残念」

「そっかー。じゃ、そのスキルで」

「……随分と平然としてるね?」

「だって才能がないんじゃ、仕方ないだろ」

「ふーん。ま、いいや。んじゃ、頑張ってちょ」

「ああ。ありがとな、女神様」


 礼を言うと、俺の身体が光に包まれ始めた。


 バイバーイ、と手を振ってくる女神様に手を振り返しながら、俺は思わずほくそ笑む。

 結局、俺は全部で百柱もの女神様に会った。

 そして、それぞれから別々のスキルを――つまり全部で百個も――頂戴したのだ!


 長かった。

 むちゃくちゃ長かった。

 なんたって、まったく同じ説明を百回も受けたんだからな。


 だがついに、俺は異世界にやって来たのだ。


「いっせかっい、だーっ!!」


 ――百個のチートスキルとともに。

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