第67話 みんなペットにするの?

「ば、ば、ば、馬鹿なっ……あ、あ、あ、ありえない……っ!」


 わなわなと唇を震わせるライト。


「信じるかどうかはお前の勝手だ」


 Mr.都市伝説みたいな言い方になってしまった。

 怯えるライトに、俺は構わず近付いていく。


「ひ、ひぃっ! く、来るなぁぁぁっ!」


 ライトは背を向けて逃げ出そうとした。

 だがジタバタと宙を泳ぐだけで、その場から移動することができない。


「逃げられないぜ? だって今のお前は、俺の飛行魔法でそこに浮かんでるだけだからな」

「ど、ど、どういうことだっ? くそっ、転移魔法……っ! 転移魔法っ! っ!? な、なぜ発動しない!?」

「言っただろ? 俺にはお前の〈窃盗〉の上位版、〈強奪・極〉があるって」

「ま、まさかっ……」

「お前のスキル、すでに俺が奪ってやったぜ」

「~~~~~~~っ!!!!!!」


 ライトが愕然と目を見開く。

 それでも突きつけられた現実が信じられなかったのか、大声で叫ぶ。


「〈窃盗(スティール)〉っ! 〈窃盗〉っ! 〈窃盗〉ぅぅぅっ!」


 しかしどんなに必死になったところで、もはやスキルを発動させることはできない。


「か、か、返してぇぇぇっ! お願いだっ! いえお願いです! 返してっ、返して下さぁぁぁいっ!」


 ついには身も世もなく叫び散らすライトを、俺は一蹴した。


「やだね」


 返すわけねーよ。


「お願いっ、お願いしますっ! どうか、どうかぁぁぁぁっ!」

「言っておくけど、スキルを盗られただけで許してもらえると思うなよ?」

「っ……!?」


 ライトが恐怖で頬を引き攣らせた。

 俺はにこやかな笑顔で言ってやった。


「目には目を、歯には歯を。オーガのち○ぽにはオーガのち○ぽを。まぁ安心しろ、切れ痔になったらちゃんと治癒してやるから」

「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」




















「アッ――――――――――――――――――――――――――――――!!!!」








   ◇ ◇ ◇




「暫定的にこの国の皇帝になることになったカルナだ。よろしくな」


 玉座に腰かけた俺は開口一番そう告げた。


「ま、まさか、あの皇帝が破れるなんて……」

「し、信じられない……」


 俺の前に跪くこの国の文官武官とその他諸々。

 彼らは一様に蒼ざめた顔をしていた。


 めっちゃ俺にビビってる。

 まぁ無理もないか。

 前回の皇帝があんな奴だったわけだし。


「……あひゃひゃ……あひゃ……オーガのお○ぃんぽが……僕の中に……ひゃははぁ……」


 その前皇帝のライトは俺の足元に転がり、ぶつぶつと呻き声を漏らしていた。


「一体何をしたんですか?」

「酷いうわ言を呟いているが……」


 と、呆れ顔で訊いてきたのはティラとエレンだ。

 知りたいなら後で事細かに教えてあげよう、ふふふ……。


「しゅごいしゅごーい! パパがこーてーっ!」

「……この国、暑い」


 彼女たちだけでなく、フィリア、シロも俺の背後にいる。

 フィリアはやたら目をキラキラさせているが、シロは興味なさそうに服を脱ごうとしている。おいこら、こんなところで脱ぐな。


 転移魔法でいったんNABIKOのところまで戻り、また転移魔法でここまで連れてきたのである。ちなみにルシーファもさっきまで居たんだが、「美女のにおいがしますわぁぁぁっ」と叫んで後宮の方に行ってしまった。


 ほら、やっぱり俺の人間性の素晴らしさを証明してくれる子たちがいた方が信頼してもらいやすいだろ?

 と思っていたら、フィリアがとんでもない爆弾を投下してくれた。


「パパー、みんなペットにするのー?」

「ちょ、フィリアたん!?」


 この状況で何言っちゃってるの!?

 お願いだから空気読んで!


「くっ、やはり今度の皇帝も国民を奴隷としか思っていないのか……」

「いや奴隷どころかペット扱いだぞっ……」

「見ろ! 後ろに首輪を付けさせられた少女がっ……」

「幼女までペットにしているのか……」


 うおおおっ、しまった!

 シロの首輪のせいで説得力が……っ!

 しかもフィリアのことも完全に勘違いされている。


「我々まであんなふうに……」

「いやさすがに男までは……」

「だが見ろ、前皇帝のあの様子……あれは恐らく……」

「まさか、両刀使いだというのかっ……」


 いやないから。絶対ないから。

 ていうか、ひそひそ言ってんの全部聞こえてるからな?


「あ、安心しろ。俺にそんなつもりはない」


 慌てて取り繕うが、しかし彼らの不信に満ちた表情は変わらない。


 俺と同じ異世界人のせいで色々と酷いことになっているこの国を、どうにかしてやらないとと思って自ら皇帝を志願したんだが、やっぱ辞めておけばよかったぜ……。


「パパー、フィリアもこーてーやりたーい!」

「お、そっか。じゃあフィリアに任せたぜ! 頑張れよ! 我が家は自主性を重んじる教育方針だからな!」

「わーい」

「冗談ですよね!?」


 いや、割と本気だぞ?




   ◇ ◇ ◇




「パパのいうことをきくのーっ!」


 と、フィリア皇帝陛下からのお言葉をいただいたので、俺は早速改革を始めることにした。

 ちなみに今の俺の立場はこの国の「すーぱーだいじん」である(フィリアが新しく作った役職)。


「とりあえず人質はすべて返還。こいつが皇帝になってから属国や植民地にされた国は、全部独立させて元通りにする」


 各国の代表者たちがどよめいた。


「ほ、本当ですか……っ?」

「で、ですが、やはり無条件という訳ではありますまい……?」

「いや、無条件だ。どころか、こっちから賠償金を出す。どの国も毟り取られまくって、かなり貧窮しているみたいだしな」

「賠償金っ!? 我々ではなく、そちらが支払うと!?」

「なっ……なんと!」


 俺の提案に驚愕する各国代表者たち。

 しかし慌てたのはこの国の高官たちだ。


「そ、そんなことをしては、今度は我が国が傾きます……っ!」

「侵略には多額の戦費がかかったのですぞ……っ?」

「くちごたえはゆるさないの!」ズゴーン!(←フィリアが床板を踏み抜いた音)

「「ひぃぃぃっ……」」

「……その辺については考えがある。つーか、そもそもこの国はまず無駄な支出から――」


 ――それから俺は大鉈を振るって様々な改革を断行しまくった。

 当然、俺に執政の経験なんてあるわけないのだが、〈政治経済・極〉や〈指揮統率・極〉、〈未来予測・極〉なんかのスキルがあるし、まぁ間違ったことはしないだろう。


 あと、あくまでフィリアは暫定の皇帝なので、ちゃんと後釜を用意しなければならない。

 次期皇帝の候補は、ライトが来るまで王族だった連中だ。

 それが一番波風が立たなくていいんだが、王族もなかなか微妙な奴が多くて頭を悩ませる。もちろんライトよりは遥かにマシだが。


「というわけで、君に決めた!」

「きめたーっ!」


 俺|(とフィリア)が指名したのは前々皇帝の第八皇子。

 思わずハッとさせられるような美少女――――ではなく、男の娘である。


「えええっ、ぼ、ぼ、ぼくですかぁぁぁっ?」

「うん。だって可愛いから」

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