ダンジョンとエルフ編

第7話 S級ダンジョンに装備無しで挑んでみる

 美人受付嬢のリューナさんから、冒険者の会員証を発行してもらった。


「そ、それでは、カルナ様のご武運を、お、お祈りしております……」


 めっちゃ俺にビビってた。

 まぁあんなの見せられたら仕方ないか。


 ちなみに俺のランクはDである。

 通常はFからのスタートなのだが、ギルドマスターに一発喰らわせることができたため、約束通りにDランクにしてもらえたのだ。


 服は着替えた。

 血で赤く染まっていたこともあり、あの後しばらくして目を覚ましたギルドマスターがくれたのだ。

 なぜか俺を見る視線が泳いでいて、あれ以上、深くは追及してこなかった。


『なぜかも何も、マスターの規格外の力に怯えただけです』

「確かに、ちょっと失禁してたっぽいもんな」

『マスター、そこは気づいたとしても触れないでおいてあげましょう』


 さて、せっかく冒険者になったんだし、なんか依頼(クエスト)でも引き受けるかな。


『現在マスターは無一文ですし、早急に今晩の宿代と食事代を確保する必要がありますね』


 おっと、そうだな。

 俺、この世界の金を一円も持ってないんだった。円じゃないだろうけど。


『この世界では主に、銭貨、銅貨、銀貨、金貨、大金貨が利用されています。それぞれの価値については、銭貨1000枚=銅貨100枚=銀貨10枚=金貨1枚と考えていただいて構いません。大金貨は変動が大きいですが、おおよそ金貨30枚の価値があります』

「昼食の相場はどれくらい?」

『銅貨5枚から6枚といったところでしょうか』


 なるほど。ということは、銅貨1枚は日本円だとだいたい百円くらいの価値ってことか。銀貨で千円、金貨で一万円だ。分かりやすい。


 俺は掲示板のところへ移動した。

 色々な案件が張り出されているな。

 依頼にもFからSまでのランクがあるらしく、当然、ランクの高い依頼ほど成功報酬が高い。

 ランクによる制限がある依頼もあった。

 Dランクなら大抵のものは受けることができるみたいだが、やはり高レベルのものとなるとCランク以上とか、Bランク以上という条件が書かれていた。


「ダンジョンに行ってみたいな」


 掲示板には、ダンジョンの情報が書かれた紙も貼り付けてあった。王都を拠点にしている冒険者たちが主に活動しているのは、以下のダンジョンらしい。



ダンジョン『小鬼の巣穴』

 難易度:F(攻略済み)

 場所:王都北部の森。片道1時間弱。

 主にゴブリンが棲息している洞窟型の迷宮。


ダンジョン『シルザ廃鉱山』

 難易度:E(攻略済み)

 場所:シルザの町北東部。片道4時間。

 主にコボルトが棲息している鉱山型の迷宮。


ダンジョン『ルーアン遺跡』

 難易度:C(攻略済み)

 場所:王都南部の廃墟。片道2時間強。

 ダンジョン化した古代遺跡。ゴーレムの他、獣系の魔物が棲息している。


ダンジョン『奈落の大穴』

 難易度:B(攻略済み)

 場所:ラザ山の麓。片道7時間。

 ラザ山南部の樹海に開いた巨大な大穴。下級悪魔(レッサーデーモン)が出没する。



 ……うーん。

 どれも攻略済みだな。


「やっぱダンジョンと女の子は初物がいいよなー」

『今、マスターの性癖を暴露する必要ありましたか?』

「おっ、もう一つあるじゃん」



ダンジョン『大賢者の塔』

 難易度:S(未攻略)

 場所:王都南部。片道5時間。

 古の大賢者オーエンが遺したとされる塔。百階層からなり、上層に進むほど魔物が強力になる。下層の難易度はD。



 これは未攻略のようだ。


 ナビ子さんによれば、大賢者オーエンというのは、魔導の真髄を極めたとされる超有名な魔術師らしい。

 二百年くらい前に生まれた人族(ヒューマン)なのに、現代の魔術士でも未だ解明できていないような魔術を幾つも使っていたという。


『「大賢者の塔」は、そんな彼が晩年に建造し、引き籠ったという巨大な塔です。その最上階には、彼が遺した貴重な研究資料があるのではないかと言われています。ですが、未だ誰一人として最上階にまで辿り着いた者はいないようです』


 そんな人物の研究資料ともなれば、途轍もない価値を持っているのだろう。


『なお、ダンジョンの攻略については、国王から直々に依頼が出ています。難易度Sのダンジョンですと、報酬は大金貨一千枚です』


 決めた。

 まずはこのダンジョンに挑戦しよう。




   ◇ ◇ ◇




 ダンジョン『大賢者の塔』までは片道5時間かかるということだったが、風魔法で空を飛ぶと三十分ほどで到着した。


「でかいな」


 さすが百階まであるという塔だ。天を貫くかのように聳え立っている。

 地震きたら倒れそうだ。


「しかしこれ、空から外壁をぶち破ったら最上階にいけるんじゃないのか?」


 誰もが一度は考えるであろう、塔型迷宮の攻略法だ。


『可能です。ただし、結界を突破するにはさすがのマスターでも少々時間がかかります』


 できるらしい。

 けど、そんな方法で攻略してもつまらないよな。

 結局、俺は普通のルートでダンジョンに挑むことにした。






「完全に迷路だな」


 ダンジョン一階。

 無数の分かれ道があって、マップがないとあっさり迷子になりそうだ。


 だが俺にはナビ子さんがいるため、簡単に正しい道順を特定することができる。〈探知・極〉スキルがあるので、別にナビ子さんに頼らなくてもいいのだが。


 最短ルートで進んでいると、第一モンスターを発見した。


ホブゴブリンA

 種族:ホブゴブリン族

 レベル:19

 スキル:〈怪力〉


「ホブゴブか。ゴブリンよりも先に遭遇してしまったな」


 ゴブリンと言えば、ファンタジー世界ではお馴染みの緑色の身体をした醜悪なモンスターだが、ホブゴブリンはその亜種。しかし人間の子供くらいの大きさしかないゴブリンに対し、ホブゴブリンは身体が結構でかい。ちなみにゴブリンは危険度F(ただし単体)で、ホブゴブリンは危険度Dだ。

 ホブゴブリンは手に棍棒のようなものを持って躍り掛かってきた。


 裏拳一発。

 ホブゴブリンは吹き飛んで壁に叩き付けられると、灰になって消滅してしまった。

 どうやらこのダンジョン内のモンスターは、倒すと灰になってしまうらしい。


『大賢者オーエンが作り出した偽物だからです』

「へえ。エグイ死体が残らないのは助かるな」


 灰に交じって、赤い宝石のようなものが落ちていた。

 モンスターを動かす核になっていた魔石である。

 売ればお金になるらしいので、拾っておくことにした。


『ところでマスター。今さらなのですが』

「どうした?」



『なぜ全裸なのですか?』



「いやさ、一度、装備無しでダンジョンに挑んでみたかったんだよ」

『……だからと言って、下着まで脱ぐ必要がありますか?』

「ははっ、いいじゃねーか。誰も見てないんだし。ほら、ホブゴブリンだって全裸だろ?」

『……まさか、そこで知性の乏しい魔物を引き合いに出してくるとは思いませんでした。さすがですね、マスター』

「それほどでも」

『いえ褒めてません』


 もし他の冒険者に遭遇したら〈隠密・極〉を使えば問題ないしな。

 ちなみに服はすべて、〈無限収納〉スキルによって生み出せる亜空間に入れておいた。魔石や他のドロップアイテムなんかも全部放り込んでいる。要領制限はないらしいし、非常に便利な能力である。


 それからしばらく魔物を瞬殺しつつ進んでいると、次の階へと繋がる階段へと辿り着いた。







 気づけば十階まで到達していた。


 ぶっちゃけここまで楽勝だった。

 ホブゴブリン以外にも、オーガやトロル、リザードマンといったお馴染みのモンスターが沢山出てきたが、どれもパンチ一発で吹き飛んでいったもんな。

 やがて俺はだだっ広い部屋に辿りつく。


「おお、こいつがボスか」


 どうやら十階ごとにボスが配置されているらしい。

 十一階へと続く階段の手前に立ちはだかるのは、牛の頭と人型の身体を持つ巨大なモンスターだった。



ミノタウロス(ボス)

 種族:ミノタウロス族

 レベル:30

 スキル:〈怪力〉



 身の丈は三メートルを軽く超えている。

 バカでかい戦斧を手にして鼻息荒くこちらを睨み、今にも突進してきそう。

 なかなか強そうだ。


 まぁ結局ワンパンで倒したけどな。


 ブモーッ、という雄叫びを上げながら猛進してきたミノちゃんの懐に飛び込み、拳を腹にぶち込む。

 それでお終いだった。


 壁まで吹っ飛んだ後、ミノちゃんは灰と化して散った。


「やべ。ボスキャラ瞬殺するのって快感だわ」

『9999のダメージです。相変わらずオーバーキルですね』


カルナ

 レベルアップ: 21 → 22


 レベルが上がったようだ。

 ドロップアイテムのミノタウロスの角を回収すると、俺は十一階へと進んだ。




 それからも俺はガンガン塔を上っていった。


 二十階のボス、キングマンティコアを蹴り一発で片付け。

 三十階のボス、メタルゴーレムを手刀で一刀両断し。

 四十階のボス、レッドグリフォンを上級魔法一撃で仕留めた。


 途中、三回ほど冒険者のパーティに遭遇しかけ、慌てて気配を消して隠れたが(全裸だから)、三十階を過ぎるともはやモンスターしか見なくなった。


 どうやらこのダンジョン、これまでの最高到達記録が三十四階らしい。

 気づいたら超えてたっぽい。

 となると、もう堂々と裸で闊歩することができるな!


『……今までも十分に堂々だったかと』


 そして――俺は五十階のボス部屋へと辿り着く。


「あれ、先客がいるんだが……?」


 巨大な三つ首の魔物――ケルベロスと、魔法使いっぽい格好をした一人の少女が交戦していたのだった。

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