邪神復活編

第144話 また女神Aがあらわれた! また女神Bが(ry

「お久しぶりです、東城カルナさん」


 名前を呼ばれてゆっくりと瞼を開くと、目の前に女の子がいた。


 物凄い美少女だ。

 アイドル? いや、アイドルでも見たことないくらい可愛いぞ?

 なんか全身から光が出てるしな。


 って、女神じゃねーか。


 俺が転生する際に出会った女神だ。

 名前は確か……


「女神アーシアです。覚えておられますか?」

「もちろん」


 百人いた女神のうちの一人だ。

 最初に会った女神でもあるので、よく覚えている。


 辺りはやはり何もない白いだけの空間だ。


「まさか俺、また死んだのか?」

「いえ、今回はそうではありません。カルナさんに謝らなければならないことがあり、こうしてお呼びさせていただいたのです」


 謝らないといけないこと?

 一体何だろうか?


「カルナさんを送り出した世界なのですが……実は近い将来、人類が滅びてしまうことが分かりまして……」

「マジか」


 女神アーシアはとても申し訳なさそうに、


「そんな世界に送ってしまい、本当に申し訳ありません」

「ちなみに何で急に滅びることになるんだ?」

「それが……」


 遥か昔のこと。

 神々の園から追放された一柱の神が、世界の法則を破ってある世界に逃げ込んだという。


 邪悪な神――邪神と化したそいつは、その世界を支配しようとした。

 もちろん神々はすぐにそれに気づいた。

 ゆえに、その世界の人間に邪神を倒すことができる力を与えることにした。


 そうして無事に邪神の討伐に成功したと思っていたのだが、


「実は異空間に潜み、ずっと復活のために力を蓄えていたことが分かりまして……」


 しかも当時を遥かに凌駕する強大な力を蓄えており、もはやあの世界の者たちの手に負えないのだという。


 そこで世界ごと切り捨てることにしたのだとか。

 そうすれば、一つの世界が滅びるものの、それ以上、被害が拡大することはない。


「ですのでこのたび、カルナさんには特別に他の世界に送り直すことが認められました」


 言いながら、女神アーシアは候補となる転生先を幾つか提示してくる。


 だが俺は首を振った。


「いや、俺は別の世界に行く気なんてないぞ」

「……え?」







「ほ、本当に良いのですか?」

「ああ。構わない」

「……あなたに与えたスキルでは、邪神に対抗することなど不可能です。あの世界とともにあなたも死んでしまうでしょう。……それでもいいのですね?」


 何度も確認してきたが、俺の答えは変わらない。


「あそこには愛する嫁や娘、そしてペットがいるんだ」


 いるったらいるのである。


「俺一人、別の世界に行くなんてことは考えられない」

「そうですか……」


 決意が固いと見てとった女神様は、痛ましげに嘆息して、


「……分かりました。そこまで言うのであれば、あの世界にお戻し致しましょう」

「頼む」


 そうして光が俺の身体を包み込む。

 女神様に見送られて、元の世界に戻る――







「久しぶりね、東城カルナ。もちろん、あたしのことは覚えてるわよね? 女神イスリナよ」


 ――はずが、気が付くと目の前に別の女神様がいた。


 やっぱりこうなると思ったよ!


 イスリナは気が強いタイプの女神だが、ちょっとバツが悪そうに言う。


「実はあんたに謝んなくちゃいけないことがあんのよ」


 だよな。


「あんたを送ったあの世界、もうすぐ滅びるのよ」


 知ってます。


「だから今回、特例であんたは別の世界に送り直せるようになったのよ。不幸中の幸いってやつね」


 さいですか。


 それから当たり前のように、アーシアのときと同じやり取りが繰り広げられた。


「本気? あんたあの世界にいたら間違いなく死ぬわよ?」


 イスリナは淡白な女神かと思っていたが、意外と心配してくれているようだった。

 説得するのに、アーシアのときと同じくらいの時間がかかってしまった。


「あそこには愛する嫁や娘、そしてペットがいるんだ」

「……ふん。そこまで言うのなら好きにすればいいわ」


 それでも最後には折れてくれる。


「ま、せいぜい最後のときまで楽しみなさい」


 そして彼女に見送られ、今度こそ元の場所に――






「久しぶりですわね。女神ウェルミスですわ」


 ――ですよねー。






 案の定、それから俺は何度も何度も女神様から同じことを聞かされ、同じことを提案され、同じようにお断りする羽目になった。


 そうしてようやく百柱目の女神に。


「ねぇ君、随分と疲れてるようだけど大丈夫?」

「だいじょーぶだいじょーぶ」

「まったくそうは見えないんだけど? ていうかさー、さっきからあたしの話、全然聞いてないっしょ?」

「きーてるきーてる」

「じゃあ、どこの世界に行きたいか希望言って」

「あーそれ、どこにも行くつもりないから」

「はい?」

「あの世界と命運を共にしたいっていうか~」


 もはや物凄くテキトウである。


「君がそういうんなら仕方ないねー」

「うんうん仕方ない仕方ない」

「じゃね~」


 そして最後の女神に見送られて、俺は元の場所に戻ったのだった。







 気づくとNABIKOのリビングにいた。


「カルナさん? 一体どこに行ってたんですか? いきなり消えたのでびっくりしましたよ?」

「貴様が急にいなくなるのはいつものことだがな!」


 そう言えば、アマゾネスの都市の地下遺跡から地上へと戻り、女王への報告を終えた直後に突如として視界が切り替わったんだったっけ。


 俺は怪訝そうにしているティラとエレンをまとめて抱き締めた。


「何してるんですか!」

「何するのだ!?」


 しかし振り払われてしまう。

 俺は愕然として、


「可愛い妻と娘のために戻ってきた旦那に対して、その仕打ち……。さすがに泣くよ?」

「「意味が分からないです(のだ)」」


 ……さて。


 女神たちが言っていた邪神。

 そいつが恐らく、千年前にあのおっさん英雄によって倒された(ことになっている)やつだろう。


 おっさんは墓の奥でゴーストになってまで、万一邪神が復活したときに備えてあの聖剣を護り続けていたようだが、神々にとっては完全に想定外だったらしい。

 聖剣はそもそも一度しか使うことができず、だからこそエレンが素振りしただけで壊れてしまったのだ。


 聖剣もなければ、神々からも見放されたこの世界。

 しかし、もちろん俺は世界の崩壊とともに死ぬ気などない。


「要はその邪神とやらを今度こそ葬り去ればいいんだろ?」


 女神は全員が口をそろえてどうもできないと断言した。

 俺に与えたチートスキルは強力だが、それだけではどう足掻いたところで邪神には太刀打ちできない、と。


 だが彼女たちは知らないのだ。


 俺がチートスキルを百個も持っているということを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る