第20話 全力でラッキースケベ

 王宮内へ転移魔法で飛ぶと、そこに一糸まとわぬ美少女がいた。


 年齢は十代後半といったところ。

 きりっとした眉に、意志の強さを感じさせる紅玉の瞳、整った鼻筋。

 可愛いというより、美しいと形容すべき凛々しい容姿だ。

 それでいて、どこかしら幼さも残している。今は頬が紅潮し、水気を含んで赤ちゃんの肌のように艶々しているせいか、そちらが少し強く出ていた。


 しかし身体つきは、完全に大人のそれ。

 その最たるものが胸だ。

 瑞々しく、張りのある二つの巨大な双丘。

 それでいて、怖ろしく形がいい。

 濡れそぼった赤い長髪が張りついていて、何とも言えない妖艶さを醸し出していた。

 しかもそんな破壊的な膨らみが今、支えるものが何もないせいで、ぷるっぷるっと大胆に揺れている。

 そのたびに付着した水滴が左右に四散し、その様もまた凄まじくエロい。


 下手をすれば永遠に目を釘付けにされてしまいそうなその双丘から、俺は無理やり視線を下げる。

 すると現れたのは見事なくびれだ。

 そして鍛え抜かれた美しい腹筋に、可愛らしいおヘソ。

 そのすぐ傍をつぅっと流れていく水滴がまた、何とも言えないエロさを醸し出している。


 その雫を追いかけて俺はさらに視線を下へ。

 そこにあったのは――


「って、いつまでジロジロ観察しているつもりなのだ貴様ぁぁぁぁっ!」


 拳が飛んできた。

 しかし俺はそれをあっさり躱す。


「なぜ避けるのだ!?」


 確かに、ここは殴られて意識を手放すのがセオリーかもしれない。

 だが、俺は声高らかに主張する。


「そんなラノベ主人公みたいなお約束なんてクソ喰らえだ! 目の前に女の子の裸体がある! ならばその光景を目に焼き付けないなどという道理があるだろうか!?」

「な、何を言っているのだ貴様っ!?」

「いや、ない!!」


 俺は力強く叫び、観察を再開する。

 このラッキースケベを全力で楽しむのだ!


「いい加減にしてください!」

「ぎゃあ」


 ティラが放った雷魔法が俺の頭部に直撃しました。


 俺じゃなきゃマジで死んでたよ?


『死ねばよかったかと』




   ◇ ◇ ◇




「いいか! さっき見たことは忘れるのだぞ!」


 残念ながら服を着てしまったエレンが、顔を真っ赤にしながら怒鳴ってきた。


「分かった分かった。てか、湯気のせいであんまり見えなかったし」

「ほ、本当だなっ?」

「本当本当」


 本当はバッチリ見えた。

 いつでも楽しめるよう、脳内メモリーにしっかり保存しておこう。


『マスター、自重するのではなかったのですか?』


 何の話ですかね?


「……まったく、本当に最悪のタイミングで現れてくれたな、貴様は。いくら転移魔法を使えるとは言え、あのような登場の仕方は心臓に悪いぞ」


 エレンは深々と溜息を吐き出した。

 ちなみにここはエレンの自室の応接室。

 自室に応接室があるなんて、さすがは王女である。


「まさかお風呂に入っているところだとは思わなかったんだ」


 いやぁ、おっさんのときと同じ失敗をしてしまったみたいだ。

 今度からは気を付けないといけないなぁ、ハハハ。


「……それ、本当に偶然ですよね? まさかと思いますが、わざとではないですよね?」


 ティラがじろりと睨んでくる。


「ソンナワケナイ」

「何で片言なんですか? 本当のことを言ってください。言わなければもう一発、喰らわせますよ?」

「偶然じゃない。ついムラムラしてやった。後悔はしていなぎゃあっ」


 本当のこと言ったのに撃たれた!


「パパのえっち!」

「ははは~、そうだぞ~、フィリア、パパはエッチだぞ~」

「子供の前でそれを認めないでくださいよ!?」


 ティラが今度は杖で叩いてくる。

 この杖、魔法の補助用なのに、だんだんと打撃用になりつつあるな。


『ぜひとも打撃にも転用できる、より攻撃力の高い錫杖(メイス)に変えてほしいですね』


 痛いからやめて!


「それにしても、あれからもう何日経ったと思っているのだ。すぐに城にくると思って、ずっと待っていたのだぞ」


 幸い先ほどの俺の自白は聞こえてなかったらしく、少し拗ねた様子で別のことを責めてくるエレン。

 それから、ちらりとティラやフィリアの方を流し見て、


「それにこの二人は……」


 そんなエレンを、フィリアが不思議そうな顔で見つめ返し、逆に訊ねた。


「ねぇねぇ、パパ、このひと、だーれ?」


 ふっ……ついにこのときが来たか……。

 だがこれ以上、可愛い娘にこの真実を隠し続けることはできないだろう。


「この人はな、フィリアの二人目のママなんだ」


 俺は白状した。


「貴様は何を言っているのだ!?」

「ちょ、何で増やそうとしてるんです!?」


 エレンとティラが血相を変えて同時に叫んだ。

 そんな二人の反応を余所に、フィリアは満面の笑みを浮かべてエレンに抱き付く。


「わーい! フィリアの、ふたりめのママぁ~」


 お風呂上りでいい匂いがするからか、フィリアはエレンのお腹辺りに顔を埋めて犬のようにクンクンしている。


「あ、あたしはママではないぞっ!」

「ママじゃないの……?」


 エレンを見上げ、潤んだ瞳で問うフィリア。


「ぐっ……か、かわいい……」

「だめ……?」

「……だ、ダメなわけないだろう!」


 フィリアの愛らしさに、あっという間に陥落するエレンだった。

 さすが天使。最強伝説は揺るがない。


「……フィリアちゃん……もしかして誰でも良かったの……?」


 一方、ティラが物凄くショックを受けていた。


「フィリアはママがいっぱいいる方が嬉しいんだよな~?」

「うん! フィリアね、たーくさんママがほしい!」

「そうかぁ~。フィリアがそんなに言うなら、ママをたくさん増やさないとなぁ~」

「わーい! パパ、がんばって!」


 よおし、パパ、可愛い娘のために頑張っちゃうぞ!


「……」

「……」


 エレンとティラが俺に物凄く冷たい視線を向けてきている気がしたが、たぶん気のせいだろう。


『気のせいではありません。なお、わたくしに目という器官があるならば、確実に同じ視線を向けていることでしょう』


 と、そこでふと俺はある疑問を抱く。

 フィリアに恐る恐る訊いた。


「ち、ちなみに、パパは俺一人だけで十分だよね?」

「……………………………………………………………………うんっ」


 答えるまでにすごい間があった気がするが、たぶん気のせいだろう。

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