堕ちた天使編
第40話 天空の城
秘湯を後にした俺たちは、再びNABIKOに乗って旅を続けていた。
「次はどこに行く予定なのだ?」
温泉のお陰で心なしか肌がツヤツヤしているエレンが訊ねてくる。
「特に決まってないな。とりあえず東に進んではいるけど」
元より目的のある旅ではない。途中で様々な国や都市に立ち寄りつつ、気の向くままにこの世界を満喫していくのだ。
『マスター、面白いものを発見いたしました』
「面白いもの?」
『はい。現在地から南東方向、上空およそ五百メートルの位置にスカイアイランドがあります』
スカイアイランドというのは、その名の通り空に浮かんでいる島のことだという。
島を構成している岩石が、地上の岩石と反発する性質の魔力を帯びているらしく、それによって常に浮遊しているのだそうだ。
窓の外に目を向けると、確かに空に巨大な塊が浮かんでいた。
「スカイアイランドではないか!」
「本当ですね。久しぶりに見ました」
「だがあれだけ大きいのは初めて見たぞ」
どうやらスカイアイランドというのは、この世界の住民たちであれば時々見かけるようなものらしい。
ずっとその場に留まっている島もあれば、常に移動し続けているものもあるという。中には決まった軌道を動いていて、一定周期で現れるような島もあるそうだ。
その大きさも様々で、人間一人が乗るだけで精一杯といった小さな島もあれば、都市を丸ごと移転できそうなほど大きな島もあるという。
現在、俺たちの上空を飛んでいるのは、だいたい東京ドーム二個分くらいの面積を持つ結構でかいやつだった。
「しゅごーい! いってみたい!」
「気持ちは分かるが、やめておいた方が賢明だ。スカイアイランドには、地上とは異なる進化を遂げた危険な魔物が棲息していることがあると聞く。……べ、別に、高いところが怖いから言ってるのではないんだからなっ」
エレンは軽い高所恐怖症なのだ。
「ん。ドラゴンの住処もスカイアイランドにある」
と、シロ。
『あの島に魔物は棲息していません』
「では安全ということですか、ナビ子さん?」
『いえ。あの島は少々特殊で、どうやら天使が暮らしているようです。人間が足を踏み入れても安全かどうかは、その天使次第かと』
なぬ! 天使だと!
「よし、行こう。一度、天使をペッ――会ってみたいと思っていたんだ」
「今、ペットって言いかけましたよね!? 天使をペットにするとか、恐れ多いにも程があります!」
「わーい、てんしてんしー。てんしをぺっとー」
「フィリアちゃんまで!」
そんなわけで俺たちはスカイアイランドへ向かうことになった。
「ですが、どうやってあそこまで行くのですか?」
「そうだな……」
時空魔法を使って転移するのが楽だろうが、それでは味気ない。せっかくだから空を飛んで行きたかった。
「実はこういうこともあろうかと、NABIKOに改造を加えていたんだよ。ナビ子さん、飛行タイプにトランスフォームだ!」
『了解しました。第三形態へとトランスフォームいたします』
NABIKOが変形する。中にいたら何が起こっているか分からないのだが、今頃車体が鋭い流線型になり、両翼が出現していることだろう。
翼にはジェットエンジンを搭載している。これも動力は俺があらかじめ蓄魔石に溜めておいた魔力だ。
噴流によって更なる推進力を手に入れたNABIKOが、一気に加速する。やがて揚力を得て、ゆっくりと離陸した。
「しゅごーい! とんでる!」
「ひいいっ!? だ、大丈夫だろうな!? 落ちたりしないよな!?」
「大丈夫だって。たとえ落ちたとしても、NABIKOの中にいれば大した衝撃は来ないしな」
フィリアとは対照的に、壁に抱き付いて顔を青くしているエレン。
空飛ぶ島が近づいてきた。
至近距離から見ると思っていた以上にでかいな。
島の起伏は乏しく、割と平面な土地の上には木々が点在した草原が広がっている。
そして――
「随分と立派なお城ですね」
島の中央に聳え立っていたのは白亜の巨城だった。
中世西洋風の美しいお城で、白い外壁が太陽の光を反射して輝いている。空高い場所にあるからか、天国にでも来たかのような錯覚を覚えた。
恐らくこの城に天使が住んでいるのだろう。
俺たちは城の周囲に広がっている庭園部へと着陸した。
滑走路などないため、着陸の際は〈時空魔法・極〉スキルを持つ俺が空間制御の魔法を使い、ヘリコプターのように垂直に地面へと降り立った。
外に出て、〈無限収納〉にNABIKOを仕舞う。
「人っ子一人いないな」
軽く〈探知・極〉スキルで辺りを調べてみたが、生命反応はまったくない。衛兵などいないようだ。もしいたとしても人間ではないだろうが。
だがその代り、庭のあちこちに彫像が立っていた。
「随分とリアルな彫像だな」
俺はその内の一つにまじまじと魅入る。
それは裸体の女性――背中に翼が生えていることから、天使だろう――の彫像だった。
女神めいた美しい容姿に均整の取れた素晴らしい肉体。しかも細部までしっかり作り込まれていて、乳首とか陰部とかが結構生々しい。
「何でジロジロ見てるんですかッ!」
「違うぞ、ティラ。これはあくまでも芸術鑑賞だ。決してエロい気持ちで見ている訳ではない」
「そんなイヤらしい目付きをして、何の説得力もないんですけどッ!」
声を荒らげているティラを余所に、俺は真面目くさった顔をして彫像に触れてみた。
「……うーむ、素材は一体何だろうか?」
「どこ触ってるんですかッ!」
「乳首」
「触るなら腕とか足とか、他にあるじゃないですかッ!」
「ここか」
「そこはもっとダメです!」
秘部を触ると余計に怒られた。
それにしても本当に彫像ばかりだな。
しかもそれぞれ年齢や格好、体型が違う。
幼い女の子の彫像もあれば、筋肉質の女性の彫像もある。すべて裸体という訳ではなく、ちゃんと服を着ているものもあった。
ポーズも様々だ。
ていうか、どれもエロティックだな。服を着ているやつだって全体的に露出度は高いし、中身が見えそうで見えない躍動的なスカートを穿いているものまである。
共通しているのは、彫像が女性ばかりだということ。
天使って女性しかいないのだろうか?
『そんなことはありません、マスター。男性の天使も存在します。ご覧ください、あちらに男性の天使がモデルと思われる彫像があります』
ナビ子さんに言われて視線を向けてみる。
「いや、普通に女……お?」
そこにあった彫像は見た目こそ完全に女の子であるものの、股間に可愛らしいアレが付いていたのだ。
「男の娘、だと!?」
俺は衝撃を受けた。
この世界にも似たような概念があったなんて!
「ななな、何なのだこれは!? 女の子ではないのかっ?」
女の子の彫像だと思って油断していたらしいエレンが、ち○こを見て狼狽えている。すぐに手で目を塞いだのだが、指の隙間からちらちらと見ていた。
「ママ、みえなーい」
「見ちゃダメです」
「ぶー」
ティラの手で目を塞がれ、フィリアが不満げな声を漏らしている。
芸術なんだし、そんなに神経質にならなくても……。
と思ったが、あれだな、これ。
彫像って言うより、フィギュアって言った方がしっくりくるわ。等身大フィギュア。しかもちょっとエッチな。
美少女フィギュアだらけの庭園。
あの城に住んでいるのは本当に天使なのだろうか……。
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