第42話 そりゃ天界から追放されるわ
その天使は美しかった。
淡い水色の髪の毛は南国の海のごとく煌めき、背中に生えた翼は初雪のように白く眩しい。
そしてその顔立ちは、俺が転生前に会った女神たちにも劣らないほど完璧な美貌。
「彼女が、天使……?」
「はい。わたくしは天使ですわ」
その天使は男女問わず魅了する最高の笑顔を浮かべ、俺たちを出迎えてくれた。
「当惑されるのも無理はありませんわね。天使に会うことなど、地上に住むあなた方にはめったにないことですもの」
「そ、そういう問題じゃなく――」
ティラが叫んだ。
「何で裸なんですか――ッ!?」
天使は全裸だった。
しかも地べたに座ってM字開脚している。
その体勢のまま天使はにっこりと微笑みながら言った。
「これが天使流の挨拶なのですわ」
全裸M字開脚でご挨拶――それこそが天使にとっては当たり前の作法なのだと、目の前の天使は断言した。
「嘘ですよね!?」
「そんなことありませんわ」
『いえ、嘘です。そんな風習、天使にはありません』
天使がはっきりと否定するも、ナビ子さんがきっぱりと告げた。
「ほら! ナビ子さんが嘘だと言ってるじゃないですか!」
「ふふふ……」
ティラが問い詰めるが、天使は誤魔化すように微笑んで、
「己のすべてを曝け出すことによって心の壁を取り払う。わたくしが考案したこの方法、これから間違いなく天界の主流になるはずですわ」
「あなたが考案したんですか!?」
「ですから! 早くあなた方も脱いでくださいませッ! さぁ早く! 早くお見せくださいませッ! うふふふふっ!」
天使の笑顔がヤバイ。
「フィリアちゃん、見てはいけません!」
「どうしてー? てんしみちゃだめなのー?」
「あれは天使などではない!」
ティラとエレンが頬を引き攣らせ、フィリアを庇いながら後退りする。
「ん。分かった」
「って、脱がないでください!」
一方で素直に服を脱ぎ出そうとする我が家のペット、シロ。
「よし俺も」
「貴様も脱ぐなぁぁぁっ!」
俺も空気を読んで裸になろうとしたらエレンにぶん殴られた。
「うふふふっ……みんなで脱げば怖くありませんわァ!」
「嫌ですよ! ていうか、何なんですかあなたは!? 本当に天使なんですかッ!?」
ティラが問い詰めると、天使は両腕を大きく広げた。
「失礼ですわね。どこからどう見ても天使ですわ。ほら、見てくださいな」
「貴様、少しは隠せ!」
「いいえ! もっと見てくださいませ!!」
天使はハァハァと鼻息を荒くしながらこっちに近づいてくる。
「来ないでください!」
「ぎゃう!?」
ティラが天使に向かって雷魔法を放った。
「ああっ……らめぇッ……全身が、ビリビリして、ビクビクしちゃいますわァッ!」
恍惚とした顔で悶える天使。
「もっと! もっとわたくしに下さいませッ! 淫乱なわたくし目にお仕置きを! ご主人様ぁぁぁッ!」
「こんなの天使じゃないです! 私の知ってる天使は清廉潔白で神聖な存在なはずですから!」
ティラの嘆きの悲鳴が轟いた。
ティラの必死の説得により、天使はようやく衣服を身に纏った。
いかにも天使っぽい、古代のローマ人たちが着ていたトーガのような服だ。
「改めまして、わたくしはルシーファ。見ての通り天使ですわ」
天使――ルシーファは優雅に微笑み、そう自己紹介した。
こうしていると確かに天使そのものだが、ティラやエレンはゴミでも見るかのような目をして距離を取っている。
「で、何で天使がこんなところに住んでいるんだ?」
「実はわたくし天界から追放されてしまいましたの」
「追放? 何をしたんだ?」
俺の問いに、別に隠すようなことでもないのか、ルシーファはあっさりと教えてくれた。
「ちょっと天使たちのパンツを盗んだだけですの」
「天使が一体何をしているのだ!?」
「いや、パンツくらい普通、盗むだろ」
「ですわよね」
「盗みませんよ!? あなたたちの感覚でモノを語らないでください!」
いや冗談からね?
さすがに俺もパンツを盗んだことはない。ぱんつくったことはあるが。
「ちなみにどれくらい?」
「五千枚ほどですわ」
「五千枚!?」
さすがの俺も驚愕する。
予想を遥かに超える量だった。
それ、どんだけ時間がかかるんだよ。
「二百年ほどかけて少しずつ収集したんですの」
さすがは天使。年季が違い過ぎる。
「よくそんなに長い間バレなかったな……」
「ふふふ、パンツを盗むことに関しては、わたくし誰にも負けない自信がありますわ」
「偉そうに言わないでください!」
「……そもそもパンツなど盗んで一体何をするのだ?」
怖いもの知りたさか、エレンが恐る恐る問う。
「もちろん、嗅いだり穿いたり被ったり食べたり挿れたりですわ」
「き、聞かなければよかった……」
「あと、パンツプールを作って泳いだりもしましたわ」
パ、パンツプールだと!?
俺ではせいぜいパンツ風呂で満足してしまう!
この天使、何てハイレベルなんだ……っ!
『……マスターを越える変態ですね』
「くっ……俺もまだまだ未熟……もっと精進しないと……」
「何と張り合ってるんですかッ!」
「この程度で追放だなんて、どう考えても酷過ぎると思いますわよね?」
「あなたの方がよっぽど酷いですから!」
まぁ、さすがに天界から追放されてもおかしくないわな……。
「しかもこの島から出ることができない罰を与えられてしまいましたの」
つまりこの島自体が巨大な牢獄というわけか。
天使というか、完全に堕天使だ。
「ですからっ! 生の女の子を見るのは久しぶりでっ! すーはーすーはーすーはーっ! ああ! やっぱり本物は良いニオイがしますわ! もっと、もっと近くで嗅がせてくださいませ!」
涎を垂らし、とても天使とは思えない顔でティラたちに迫っていく堕天使。
「近づかないでください!」
「こっち来るな!」
「酷いですわ! ニオイくらい嗅がせてくださってもいいではないですの!」
そして思いっ切り拒絶されている。
『誰かさんと同じですね』
「だれー?」
『マスター、娘のマネをして誤魔化さないでいただけますか?』
と、そこでルシーファは何かに気づいたように足を止めた。
「……なるほど。分かりましたわ。わたくしをそんなにも拒む理由が」
ゴゴゴゴ、と全身から負のオーラを湧き起こすルシーファ。天使なのに。
彼女は俺を指差して、
「すでにこの男のモノだからですわねッ!」
「全然違います! しかも拒んでいるのはあなたに原因がありますから!」
「その通りだ! 彼女たちはすでに俺のハーレム要員!」
「だから違いますって!」
ティラのツッコミを無視し、ルシーファは俺を睨んでくる。
「許せません許せません許せませんわッ! こんな美少女を四人も侍らせるとはッ!」
四人って、娘のフィリアとペットのシロまで数に入っているらしい。
「ママー、はーれむってなにー?」
「まだ知らなくていいことです!」
「わたくしはここに閉じ込められてから百年もの間、ずっと妄想の中でしか女の子とイチャイチャできなかったといいますのにッ!」
ルシーファは怨嗟に満ちた言葉を吐き出すと、不意に昏い微笑を浮かべだした。
「ふふふ……ですが、飛んで火にいる夏の虫というのはこのことですわね……あなたを殺し、彼女たちをわたくしのモノに……ふふふ……」
バサァっ、とその純白の翼が広がる。
どうやらこの堕天使、俺とヤる気のようだ。
「いいだろう。勝った方には彼女たちを好きにできる権利が与えられることにしよう」
「望むところですわ」
「勝手に私たちを賞品にしないでくださいッ!」
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