第24話 キャンピングカーでGO
「何やってるんですかっ!? フィリアちゃん、大丈夫っ!?」
フィリアが石畳に埋まり、めちゃくちゃ慌てるティラだったが、
「んぱっ!」
という謎の叫び声とともに、フィリアが穴の中から飛び出してきた。
さすが魔導人形。無傷である。いや、少しだけ生命力が減ってるけど。
「フィリアはあれくらいじゃビクともしないって」
「だからって、もうちょっと手加減してあげて下さいよ! 大人げない……」
ティラが睨んでくる。まだあれでも一回目の変身なんだけどなぁ。
一方、フィリアは喜色満面で俺の胸に飛び込んできた。
「パパ、しゅごーい! つおーい!」
「はっはっはー、そうだ。パパは強いぞー。けど、フィリアも良い線いってたぞ?」
「ほんとー?」
「ああ」
フィリアを高い高いしながら頷く。
それが楽しかったのか、フィリアは、
「おもいっきりやってーっ!」
「よぉし」
俺は地面すれすれまでフィリアの身体を下げてから、おりゃっ、と腕を振り上げた。
「わああああああ―――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――キラーン。
……
…………
………………
「思いっきり投げ過ぎたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「言ってる傍から何やってるんですかぁぁぁっ!」
◇ ◇ ◇
そんなハプニングがありつつ、俺たちはアルサーラ王国を出発した。
獣人の国、エクバーナまで徒歩で移動すれば三週間以上はかかるという。
しかし風魔法で空を飛ぶならば、恐らく二、三日で辿り着けるだろう。
「そ、空を飛ぶのは嫌だぞ!」
だがその方法はエレンが強く拒否。
「セクハラされそうなので、私も反対です」
さらにティラまでもが反対してくる。
三人を俺が抱えて飛ぶことになるため、警戒しているのだ。
「そんなに俺のことが信用ならないのか?」
「むしろどうして信用してもらえると思っているのかが不思議なくらいです」
相変わらず厳しいティラさんである。
他には転移魔法を繰り返すという手もあった。
というか、これが一番簡単な方法で、恐らく数時間ほどで到着できるに違いない。
〈魔力回復・極〉を持ち、魔力値がリミットブレイクしている俺なら、転移魔法を百回以上連続で使っても魔力は枯渇しないだろう。
しかしせっかく旅をするというのに、それでは何だか味気ない。
という訳で、〈製作・極〉スキルを活かして作ってみました。
昨晩、ほぼ徹夜で作り上げたそれを〈無限収納〉から取り出す。
「な、何だこれは!?」
「ゴーレムですか?」
「おっきぃー」
それは身の丈ゆうに五メートルを越えるゴーレムだった。
ただしよくRPGのモンスターとして登場する、のっぺりとしたやつではない。
むしろ戦隊モノとかで、巨大怪人と戦う人型ロボットに近いだろう。
材料は鋼と聖銀(ミスリル)の合金。聖銀は高価だが、S級ダンジョンクリアの報酬で購入した。
土魔法を使えば、硬い金属も自由自在に曲げたり切断したりすることが可能だ。〈魔力操作・極〉を持つ俺なら、もっと繊細な加工作業もお手のもの。
ちなみにこのゴーレム、しゃべることもできる。
『あーあー、マイクテス、マイクテス』
「ゴーレムがしゃべったぞ!?」
いきなり響いた声に、エレンが腰を抜かしかける。
『初めまして、ティラ様、エレン様、フィリア様』
「私たちの名前まで……っ?」
「しゅごい!」
実はこの声の主、〈道案内(ナビゲーション)・極〉のナビ子さんだった。
これまでは俺にしか彼女の声を聞くことができなかったのだが、これまた俺が自作した特殊な外部スピーカー的魔導具によって、その課題を克服したのである。
『いつもマスターが大変ご迷惑をおかけしております。マスターに代わって、深くお詫び申し上げます』
「このゴーレム、なんて礼儀正しいんですか!」
ティラが感動していた。
実際にはゴーレムとナビ子さんは別物なんだけどな。
ゴーレムには独自の人工知能を搭載している。フィリアを完成させた俺なら朝飯前だ。
ナビ子さんにはこの人工知能に対し、命令する権限の一部与えているだけに過ぎない。
「この子の名前は何というのだ?」
「ナビ子さんだ」
「なびこ……?」
『やはりマスターのネーミングセンスの酷さには誰もが絶句するようです』
そんなに酷いかなぁ?
「しかし考えてみたらまるで女性っぽくないな、このゴーレム」
ナビ子さんは女性|(たぶん)だというのに、ゴーレムは何となく男っぽい。
「よし、ここにパラボラアンテナを二つ並べて付けてみようか」
『絶対にやめてください』
何で? おっぱいっぽいのに。凹んでるけど。
「じゃあ代わりに股間に猛々しい巨砲を」
『それも絶対にやめてください』
ナビ子さんは本気で嫌そうだった。
実はこのゴーレム、何と変形ロボットばりのトランスフォームまでできるのだ。
早速、ナビ子さんに第二形態へと変身してもらう。
「す、すごい! 形を変えたぞ!?」
「かっくい~」
「何ですか、これは……?」
それはキャンピングカーだった。
当然のことながら、車内に乗り込むことができるようになっている。一応、ゴーレム状態でも中に入ることは可能だが。
「な、何だこれは……? 中にリビングやキッチンまであるぞっ?」
ちゃんとお風呂やトイレも付いている。
しかも二階建て。
二階にはベッドがあり、寝室となっていた。
「しゅごーい!」
瞳をきらきらと輝かせ、一階と二階を行ったり来たりしながら走り回るフィリア。
「これ、本当に動くんですか?」
「もちろん」
このゴーレム兼キャンピングカー――〝NABIKO〟は俺の魔力を動力源としている。正確には蓄魔石にあらかじめ溜めておいた魔力で走る。なので外部からの燃料の補給は必要ない。
車輪がゆっくりと回転を始め、車は前進を始めた。
『出発いたします。目的地・エクバーナは、北北東方向におよそ六百二十キロ。到着予定時刻は、現在からおよそ百三十時間後です』
車内にナビ子さんの声が響く。
運転は基本的には彼女任せだ。
障害物は勝手に回避してくれるし、何かあれば警告音で知らせてくれる。
俺たちは乗っているだけでいい。何て楽チンな旅だろうか。
◇ ◇ ◇
『警告。三十を超す騎馬集団が接近中です』
NABIKOのリビングでのんびりしていると、不意にナビ子さんからの警告があった。
「野盗か」
後部の窓から外を見ると、いかにも野盗っぽい連中が車を追い駆けてきていた。
「なんだあの馬鹿でかい馬車は!」
「いや、馬がいねぇぞ? どうやって動いてんだよ?」
「ゴーレムの一種かもしれねぇな。破壊して部品を売れば金になるぜ!」
キャンピングカーなど見たこともない彼らは、ゴーレムの一種と思ったようだ。実際、その通りなのだが。
「ひゃっはー、俺に任せろぉぉぉっ!」
やけにハイテンションな野盗の一人が魔法を唱え始めた。
中級の火魔法だ。
炎の塊がこっちに飛んできて、車体に直撃した。
「なっ……無傷だとっ?」
ただの金属じゃなくて、聖銀を含んだ特殊合金製だからな。
聖銀は魔力を帯びた金属であり、ちょっとやそっとのダメージでは傷一つ付かない。
『迎撃システムを作動しますか?』
ナビ子さんが訊いてくる。
「ここはあたしに任せてくれ!」
俺が返事をする前に、エレンが窓を開けて身を乗り出した。
走行中のキャンピングカーから飛び降りる。
注:脳筋だからできることです。良い子は絶対にマネしないでね。
「フィリアもいくーっ!」
早速、良い子がマネをしてしまった……。
「なんだ、人が乗っていやがったのか?」
「女と子供だぜ?」
「ひゃはははっ、しかもかなりいい女じゃねぇか! 捕まえて楽しもうぜ!」
お約束な下衆台詞を吐く野盗たち。
「ふん。貴様らごとき、準備運動にもならんぞ」
エレンは迫りくる騎馬隊の群れへ、恐れる様子もなく突っ込んでいった。
「ば、馬鹿かこの女っ、馬に轢き殺されぐべっ!?」
先頭を走っていた野盗が、気がつけば馬ごと宙を舞っていた。
エレンが拳で馬体を殴り、吹っ飛ばしたのだ。
「剣を抜く必要すらなさそうだな」
さらにエレンは次々と野盗を殴り飛ばしていく。
「何なんだあの化け物は!?」
「あの赤い髪っ! まさか……破壊姫っ!?」
「アルサーラ王国最強の脳筋女が何でこんなところに!?」
エレンの正体に気づいた野盗たちが戦慄する。
「くっ……仕方ねぇ! あっちの幼女だ! 幼女を人質に取れ!」
野盗たちの首領と思しき男が叫んだ。
「ただし絶対に傷はつけるなよ! 幼女を傷つけたらただじゃ置かねぇからな!」
「当たり前っす!」
「幾ら野盗でも、幼女を傷つけるほど落ちぶれちゃねぇ!」
「たとえ餓死したとしても幼女だけは護る! それが俺たちのポリシーだ!」
随分と幼女好きな野盗たちだった。
「さぁ、こっちにおいで……怖くないよ、ハァハァ」
「お、おじさんたちと少しおしゃべりしようよ?」
「お菓子あげるから……」
数人の野盗たちがフィリアを取り囲む。
完全に変質者である。
「フィリア、おじさんたちきらーい!」
フィリアがはっきり言うと、野盗たちはショックを受けたようで、
「な、なぜだ!? 俺たちの何がいけないんだ!?」
「だって、くさいもん!」
「「「お風呂に入っておくべきだったーーーっ!!」」」
天を仰ぐ野盗たち。
フィリアは鼻を摘まみながら彼らを蹴り飛ばした。
十メートル以上も吹き飛んでいく。
「なんだあの幼女は!? めちゃくちゃ強いぞ!? 俺も蹴られたい!」
「くそっ、退避っ! 退避だぁぁぁっ!」
「待て! 逃がさんぞ!」
泡を食って逃げ出す野盗たち。それをエレンが追い駆ける。
その様子を、俺はキャンピングカーの上から見下ろしていた。
「とりあえず風呂代わりにこいつでも喰らっておけよ」
逃げていく野盗たちへ、上級の水魔法をぶっ放す。
巨大な水塊が怒涛と化して野盗の群れを一挙に呑み込んだ。
ついでにエレンも。
「なんであたしまでぇぇぇぶふぁっ」
後からびしょびしょになったエレンを回収した。
服がすけすけになってて非常にエロかった。
さすがはおっぱい要員である。
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