第22話 おっぱい要員が仲間になった!

 オーエンの研究資料が本物であることが確認された後、俺は国王から直々に褒賞金を頂戴することとなった。大金貨千枚である。

 難易度Sのクエストを攻略した俺に、ぜひとも直接会ってみたいと向こうから言ってきたのだ。

 エルフの里のことについて話したいとも思っていたので、こちらとしても好都合だった。


 国王は柔和な笑みが印象的な、いかにも温和そうなおっさんだった。

 年齢は四十前後といったところだろうか。


「よければ我が国の騎士団に入団せぬか?」

「気持ちはありがたいけど、組織に入るのとか苦手なんで」


 どうやら自ら俺を勧誘するためだったらしい。

 しかし俺はあっさり断った。


「そうか。それだけの大金を手にすれば、わざわざ宮仕えをする必要もないしのう」


 国王は特に気分を害するでもなく、顎髭をさすりながら頷いた。

 それからティラの方へと視線を向け、


「エルフのお嬢さんはどうじゃ?」

「いえ。せっかくですが、私も……」

「ふぅむ。残念じゃのう。ではそちらの可愛らしいお嬢ちゃんはどうじゃ?」

「パパとママといっしょじゃなくちゃ、いや!」

「そうかそうか」


 フィリアにまで訊いたのは、国王なりのユーモアだろう。

 子供好きなのか、フィリアの返答を聞いて嬉しそうに笑っていた。いや、ロリコンじゃないと思うよ?


 それから俺はエルフの里のことについて伝えた。


「ほう。それは良かった。我々としても、以前からエルフの里とはぜひ友好関係を築きたいと思っておったのじゃ。では早速、改めてこちらから使者を派遣することにしよう」


 反応はかなり好意的だった。

 しかしエルフの里と同盟を結んだところで、アルサーラ王国としては大した利益にはならない。せいぜい、大森林でしか得られない食材や素材などを入手できるようになるくらい。一方で、アルサーラ王国は同盟国に対し、その安全を保護する責務を負うことになる。


 アルサーラ王国ほどの武力があれば、エルフの里を支配下に置くことも簡単だろう。

 なのに対等な、いやそれどころか、エルフの里側がほとんど一方的な恩恵を受けるような関係を築こうというのである。


 俺がそのことについて指摘すると、


「誰かと仲良くなることに、わざわざ理由が必要かのう?」


 逆に不思議そうに訊き返されてしまった。


「無論、それだけではないがの。長期的に見て、エルフとの同盟は我が国に利益があると考えておる。それに、様々な種族と友好関係を結ぶことによって我が国は国力を高めてきた。エルフたちと友好関係を築くということは、未だ非友好的な種族に対する良いアピールにもなるのじゃよ」


 王女であるエレンがあんななので、「この国大丈夫かよ?」と本気で心配していたのだが、これならエルフの里のことを任せても大丈夫そうだな。


「父上!」


 そして謁見を終え、俺たちが立ち去ろうとしたときだった。

 突然、エレンが謁見の間に飛び込んできた。


「父上! お願いがあるのだ!」


 国王の元へ、ずかずかと歩いていくエレン。


「あたしを騎士団長の任から解いてほしい!」

「どういうことじゃ?」

「あたしは先ほど、あの男に敗北を喫した。そして自分の弱さを痛感したのだ!」

「……うむ。それで?」

「だからあたしは、あの男に師事することにした!」


 エレンはそう勝手に宣言した。

 いやいや、それ初耳なんだけどさ?


「あの男はこれから旅に出るという! あたしもそれに付いていくつもりだ! だから騎士団長を続けることはできないのだ!」


 三段論法っぽい言い方なのだが、かえって頭が悪そうに聞こえるのはなぜだろうか。


「なるほど」

「父上! 頼む! この通りだ!」


 エレンは深々と頭を下げた。

 それから今度は俺の方を向いて、


「お願いだ! あたしを弟子にしてくれ! あたしには剣しかないのだ!」


 鬼気迫った表情で嘆願してくる。


「そんなことないと思うぞ。お前には他にも誇れるものがあるだろ?」

「っ……あたしにそんなものがっ……?」

「ああ」

「それは、一体……?」


 不安げな上目づかいで聞いてくるエレンへ、俺は声高らかに告げた。


「おっぱいだ!」


 あと尻も。

 俺が〈鑑定・極〉で調べたところによると、「B91 W57 H90」である。モデル顔負けだ。

 エレンは天啓でも得たかのように、


「そ、そうかっ……あたしには、おっぱいがある……っ!?」

「いやいやそこ、流されないでくださいよ!? おかしいですから! 意味不明ですから!」

「はっ……」


 ティラの突っ込みに、エレンは我に返る。


「お、おっぱいなど何の役にも立たないではないか! 動くときに邪魔になるだけだ! むしろ彼女のように小さい方がいい!」


 エレンはティラの胸を指差して怒鳴った。


「……今の発言、微妙にかなり失礼なんですけど……?」


 確かに私は貧乳ですけど、と唇を尖らせるティラ。ちなみに「B65 W54 H66」でのAカップある。

 それを見て「ママ、だいじょーぶ。フィリアもちいさいよ」と慰めてあげているフィリアたんは健気で可愛いが、何の慰めにもなっていないどころか返って逆効果だな、うん。ティラの頬が引き攣ってるし。


「カルナ殿。わしの方からもぜひお願いしたい」


 そこへ国王が口を挟んできた。


「いいのか? 騎士団長が抜けると大変じゃないか?」

「むしろこの脳筋に騎士団長を続けられる方がよっぽど大へ――げふんげふん」


 咳で誤魔化したが、今ちらっと本音を言いかけなかったか?


「確かに、エレンはこの国一の剣士。抜けてしまうのは大きな痛手じゃ。しかし我が騎士団は、その程度ではビクともせぬよ」

「しばらく娘と会えなってしまうぞ?」

「むしろ早く嫁に出したいところなのじゃがどこも受け入れてくれな――ごほんごほん」


 また咳で誤魔化したが、明らかに本音を言いかけたよな!?


「エレンがこれほどの決意をもって決めたことじゃ。国王として、父として、それに答えてやるべきじゃろう」


 真剣な顔で主張する国王。


『どうやら一刻も早く出ていってほしいようですね』


 エレン、可哀想な奴……。


 まぁ連れていくのはいい。

 貴重なおっぱい要員だしな。

 けどせっかくなので(?)、俺はちょっと意地悪してみることにした。


「……やっぱりエレンは国に残るべきだと俺は思う」

「なっ!?」


 俺の言葉に、国王は愕然としたように目を見開いた。

 そして捲し立てるように、


「い、一体、何が気に入らぬのじゃ? 親バカかもしれぬが、エレンは本当に良い娘じゃぞ? 見た目だけなら美少女じゃ! こんな可愛い子を弟子にできるなど、幸せ者じゃぞ!」

「確かに、剣を振ったときにぷるんぷるん揺れるこの爆乳は惜しい」

「そうじゃろうそうじゃろう? 弟子にすれば幾らでも見放題じゃぞ?」


 国王は玉座から身を乗り出して主張してくる。

 だが俺は首を左右に振った。


「けど、この国にエレンは必要な存在だと思うんだ」

「なぜそうなるんじゃ!? こんなに素晴らしい娘を弟子にできるんじゃぞ! 胸だって揉み放題じゃぞ!」

「それは本人の了解を取るべきですよね!?」(←ティラのツッコミ)

「そんなに可愛い娘と離ればなれになるのは、あんたも辛いだろう?」

「た、確かに辛い! それはもう、我が身を切るような辛さじゃ! じゃがな、それでも儂はエレンの決意を無駄にしたくはないのじゃ! 国王として! 父親として!」


 必死の形相で叫ぶ国王。

 俺はうんうんと頷き、


「その気持ちは分かる」

「そうか! 分かってくれたか!」


 国王は目を輝かせた。


「けどやっぱり連れていけない」

「なぜじゃあああっ!?」


 一転、天国から地獄へと突き落とされたかのように、絶望的な表情を浮かべる国王。


「連れて行ってくれぇぇぇっ!! 可愛い可愛い儂の娘のためにぃぃぃっ! お願い! お願いじゃからぁぁぁぁっ!! この通りじゃああああっ!」


 ついには玉座から降り、絶叫とともに俺に土下座してくる。


「父上……そこまであたしのことを想って……くぅ……」


 エレンは感極まったように涙を拭っていた。

 ティラが溜息を吐きつつ、俺をジト目で睨んでくる。


「……いい加減、遊ぶのはやめた方がいいと思うんですけど?」


 こうして、おっぱい要員、もといエレンが仲間に加わったのだった。

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