35 2度目のキス②

 その時コンコンッとドアを叩かれた。目を向けると上部の隙間から青い小鳥に折り畳まれた紙が無邪気に入ってくる。小鳥は机の上に舞い下りると、みるみるほどけて一枚の紙に戻った。

 朝陽からの手紙だ。


「本当にマメだよね」


 あれから毎朝手紙を出すことを朝陽は有言実行している。その内容は必ず「おはよう」からはじまり、天気の話や昨夜食べたごはんのことなどたわいない。

 それでも夜風を気にしてくれる人がひとりいて、ごはんや空を見上げたふとした瞬間に思い出してくれることは、素直にうれしかった。


「あの人、根はいい人なんだよね。……返事、書いてみようかな」


 胸元に差した万年筆型の通信魔装具へ手をかける。ガチ勢への恐怖と、食事にはやっぱり行けない負い目から返事はまだ一通も出していなかった。


「ダメ。やっぱり今のナシ。こんな手紙なんでもないわ。同じ内容のものを十人、二十人に出してるのよ、きっと」


 夜風は朝陽からの手紙を小さく小さく畳んで、ポケットにしまい込んだ。それでも今朝は妙にそわそわする気持ちを落ち着けられなくて、無闇に机の引き出しを開け閉めする。

 すると三段になった引き出しの一番下で、お菓子といっしょに入れられた白のシュシュを見つけた。鏡花が髪を束ねる時に使っているものだ。

 結局めんどうくさがって今日もいつものポニーテールに結ってきた髪を触る。


「鏡花さん、すみません。今日だけお借りします」


 気分転換したかった夜風は、引き出しに向かって手を合わせ鏡花に断りを入れた。

 髪をほどきながら棚の前に立ち、そこのガラス戸に映る自分を見ながら手ぐしで整える。片耳の後ろから垂れるように結うおさげは、朝ドラマのヒロインが休日を過ごす時にやっていた髪型だ。

 見よう見まねで束ねたヘアゴムの上から、鏡花の白いシュシュをつける。レースにラメがあしらわれ、振り返る度にさりげなく輝いていたドラマの髪飾りとそれはよく似ていた。

 夜風はヒロインになったつもりで上機嫌に髪を振り、いろんな角度からシュシュを楽しむ。これくらいなら田舎者の自分でも似合う気がした。

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