22 本社勤務③
なんでも実動隊とローレライ治癒団は、魔装具の力を示す広告塔でもあるそうだ。だから制服には凝ったデザインのものが採用され、特に実動隊は選び抜かれた花形として内外から注目の的ともなっている。
しかしなによりも目立つことが苦手な夜風は、スーツ姿の社員に紛れてさっさとエレベーターホールを目指す。六基あるそれが絶えずドアを開閉して人を飲み込んでも、ここばかりはごった返していた。
夜風は自分の意思とは関係なく、人波に押し流されていく。エレベーター中ほどで壁と人に潰されたまま、上階へと運ばれていった。
途中、降りる予定の四十階のボタンが点灯していないことに気づき、人の隙間に手を突っ込んで押さなければならなかった。ということは、と過った嫌な予感に眉をひそめる。
「すみません、降ります! すみませんっ、すみませーん!」
思った通り、四十階に到着して滑らかに開いたドアから出ていく者は誰もいなかった。押すな、と言うほうが無理な密度の中、夜風はとにかく断りを入れながら掻き分けていくしかない。
ドアがゆっくりと閉まりはじめた時、ようやく抜け出すことができた。まったく。今日はとことん汗をかかされる日らしい。
ひとつ息をこぼした夜風は、どこからか聞こえる水音に誘われ視線を起こした。思わず感嘆の声がもれる。
「すごい。きれい……」
そこはガーデンフロアと呼ばれる社員たちの憩いの場所だった。木を模した茶色の柱は先が枝分かれして、フロアふたつ分を使った高い天井に伸び伸びと広がっている。
ダイヤ形に設置された花壇には本物の土と観葉植物が植わり、照明に照らされて青々と輝いていた。そして中央に歩み寄った夜風を、岩に腰かけるブロンズの人魚像の噴水がやさしい微笑みで歓迎する。
人魚は様々なおとぎ話に登場する精霊の代表格であり、この水の都アクレンツェを象徴する守り神でもあった。
「そりゃ誰も降りないわけだよね」
水音だけが滴るフロアのあちこちにはテーブルセットやベンチが置かれている。昼時になれば昼食を食べる社員でにぎわうのだろうが、朝からここに用のある者はいないだろう。
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