21 本社勤務②

「嘘じゃねえって! なっ。夜風の良さは俺がわかってる。お前さんは第三支部の代表治癒師として申し分ない! 特別手当ても出るから!」


 夜風は怪訝に思って首をかしげた。確かに不安はあるが妙に励まし過ぎではないか。

 すると上司はひとつ手を打って「本社まで送ってやる!」と話を進めた。親切なのがますます怪しい。どこかへ遊びに行ったらしい上司の愛ビクフィがなかなか戻ってこない間、夜風はスポーツドリンクをちゅうちゅう吸いながら上司を視線で責めつづけた。


「でっか……。八十階あるんだっけ」


 ビクフィの背に揺られ港島に渡り、高層マンション群を路面電車で走り抜けて、夜風はエクラ本社ビルまでやって来た。空に浮かぶ入道雲と競うようにそびえる巨塔を見上げ、思わず口が開いたままになる。

 照り返しのきつい地面は中ノ島の石畳とも違うアスファルトだ。道路に沿って植えられた街路樹も夏バテで痩せ細っている。

 光り輝くガラス張りの塔に吸い込まれていく人の波に乗って、夜風も重い足を動かした。


「なんか私、浮いてる……?」


 周りのエクラ社員はみんな白のシャツに黒のパンツ姿だ。対して夜風はローレライの制服であるロングテールワンピースを着ている。白に濃い青のラインと金のボタンが、ここでは華美なものに映った。

 おまけに指は魔装具の指輪がはまっている。一見仕事道具とは思えないそれらは、往診先で顔をしかめられることもあった。

 居心地の悪さから足早に正面の自動ドアを潜り抜ける。入ってすぐのところにカウンターが待ち構え、ぱっちりした目の受付嬢が不思議そうに夜風を見ていた。

 上司によれば話は通っているはずだ。夜風はちょっとドキドキしながら、社員たちのあとにつづいてずらりと並ぶゲートに自分の社員証をかざした。

 ポンッと軽快な音が鳴り、ゲートが開いて夜風を迎え入れる。


「えっと、四十階に行って……」


 セキュリティ部のいかつい隊員と目が合った。白地にえんじ色のラインと金ボタン、腰の飾りひもが施された出で立ちは、夜風に負けず劣らず人目を引いている。

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