20 本社勤務①

「そう思うなら連絡は最低でも前日までに寄越してください」

「それは本当にすまん! いや俺も焦ったんだよ。なんせ本社から急にだったからさ」


 へらりと笑って上司は事務室に備えつけてある小さな冷蔵庫へと席を立った。そこから冷えたゼリータイプのスポーツドリンクを取り出し、夜風に差し出してくる。

 なにかとチョコやジュースをくれる上司だった。悪気はない笑みと甘いものに何度ほだされたことか。ドリンクのパッケージをちらりと見て、それがちょうど飲みたいレモン味だと知った夜風は「しょうがないですね」と許してあげた。

 我ながら現金な人間だと思うが、甘味の力は時として偉大である。


「それで、その本社の急用ってなんですか?」


 ふたを開ける前に、夜風はよく冷えたドリンクを首筋にあてて涼を取る。

 珍しいこともあるものだなと思った。ローレライ治癒団はエクラ精霊魔装具会社の中でも末端組織だ。ここ中ノ島よりもっとも本土に近い港島に本社ビルがあるが、夜風は入社式以来足を踏み入れたことはない。

 だから親会社で、本社勤務の社員と同じ社員証を持っていても、夜風をはじめとする治癒団員にはエクラの一員である意識がいまいち薄かった。


「なんか本社の医務室の治癒師が足りなくなったらしくてな。ひとり回せって言うんだよ。だから夜風行ってきて? 十五日間ばかし」


 まったく軽く言ってくれるものだ。夜風は遠慮せず不満を飛ばす。


「えー。なんで私なんですか」

「……そりゃもちろんお前さんが優秀な治癒師だからよお!」

「変な間がありましたが」


 腰に手をあてジト目を送ると、上司はへらへら笑って誤魔化す。

 その砕けた姿勢でまとめ上げられた支部には、一体感があった。小さな組織で人数も限られ、互いに助け合わなければ業務が回らないせいもあるが、上司を中心に第三支部は単なる同僚ではなく仲間として一丸になっている。

 しかし本社と聞いて、夜風は田舎から都市アクレンツェに出てきた時のような不安を覚えた。

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