53 ビクフィファームデート①

 手紙で朝陽は家まで迎えにいくと言ってくれたが、玉響の目を気恥ずかしく思った夜風は橋での待ち合わせを提案した。

 旧市街島と中ノ島を繋ぐ橋の真ん中はゆるやかに湾曲していて、ちょっとした広場になっている。その待ち合わせ場所に夜風は先に着いた。

 少し遠くに目をやって朝陽の姿がないことを確認し、小さく息をつく。


「私、変じゃないかな……」


 チュニックの裾や肩のリボン、前髪がやたら気になってしきりに直す。服選びにスポーティーを取り入れたのはあまり意識し過ぎないためでもあったのに、どうやら効果は薄い。

 朝陽が今まで遊んできた女の子たちを思うと、唐突にリュックが重たく感じられた。


「浮かれてるのは私だけかな。私は、はじめてなのにな……」


 南から吹き渡ってきた潮風に不安な気持ちを流しうつむく視界に、そっと水上バスのチケットが差し出される。夜風は弾かれるように顔を上げた。


「待たせてごめんな。先にチケット買ってたんだ」


 二枚のチケットを揺らして朝陽はにっと笑う。腕まくりした濃い青のシャツは、胸元までボタンを外しそこにかけられたサングラスがキラリと夏の日射しを跳ね返している。

 長いしなやかな足は白のスキニーパンツに包まれ、ローカットの青い靴とその間から覗く引き締まった足首が美しさと色気をかもし出していた。


「いえ私こそ、お待たせしてしまったみたいですみません」

「気にしないでよ。今日が楽しみで、俺が早く着いちまっただけだからさ」


 それはいつもの言葉遊びか。単なる社交辞令か。 まさか、深い意味がある?

 さりげなく腰に添えられた手にそわりと震える胸を押さえ、湧き上がる思いを夜風はバカバカしいと否定する。こんななんでもない言葉を気にする夜風に、朝陽が気づいていないことだけは確かだ。


「ん? あの子たちは……」


 中ノ島側の水上バス停留所に並んでいた時だった。向かい側のジェラート屋を見た朝陽がぽつりとつぶやく。彼の視線を辿った夜風の耳に、甲高い笑い声が聞こえてきて思わず朝陽の影に隠れた。

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