125 瑠璃の宝玉③
『ゴミを見つけると拾わずにはいられなくて、照れ屋さんなのに捨てた人に注意までして。大地や海のために怒ってくれる夜風が、大好き』
そよ風が夜風の前髪を梳いていく。それは生前、玉響が夜風の髪に触れる手つきとよく似ていた。
『夜風のように心あたたかい人間もたくさんいること、私は知ってるわ。私が愛した人もそうだった。人間の愚かさも醜さも愛し、美しいと言う人だったの』
静かに拳を下げた夜風からそっと離れて、瑠璃の宝玉はうつむく少女を見守る。
ひと粒の雫が震える手をぽたりと打った。ぱた、ぱたたと大粒のそれはいくつも降り注ぎ、少女を濡らしていく。人魚のひれにも輝蝶の小花にも当たっては砕け散る心の雫を、玉響は宝玉の体で受けとめ少女を仰ぎ見た。
『愛を疑わないで。あなたの他者を思いやる愛は間違いじゃない。きっと誰かの助けになる。私はうれしかったわ、夜風がここまで来てくれて。信じていたもの』
声を重ねる度に夜風の顔はくしゃりと歪み、新たな涙が瞳いっぱいにあふれてくる。今こそ愛しさで抱き締めてあげたいと願う玉響の思いを知らず、夜風はまた強く自分に爪を立てて首を横に振る。
「でももう、玉響さんとお茶できません……! おいしいものもいっしょに食べられない……! 仕事の愚痴も聞いてもらえないし、にわか雨が降ったら洗濯物どうするんですか……! もっと、もっとたくさん、玉響さんの笑顔が見たいんですう……!」
涙でにじむ視界をさっとなにかが横切った。それが銀色のひれに見えて夜風は顔を起こす。
光り輝くものが人の形を成し、浮遊していた。しかしその者の足は魚のような流線を描き、先は扇状に広がって二又に分かれている。
夜風は夢中で涙を拭った。だが海草のように揺蕩う純白の髪がみるみる光りを増し、その姿をあいまいにしてしまう。
「玉響さん……!」
胸を掻きむしりたくなる焦燥に突き動かされて、夜風は光へ手を伸ばす。またこの手に触れてくれるのではないか。 まだ届くのではないか。
せつな過った期待を裏切り、夜風の指先に触れたのは硬くて冷たい感触だった。
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