124 瑠璃の宝玉②

『だから私は均衡を保つことが大事って言ったの。エクラ社への抗議デモ活動に対して私が言ったことに嘘はないわ。増えていく精霊をエクラ社が結晶体を採掘することで抑える。その採り過ぎを抗議団体が咎める。そうやって世界は均衡を保ち、大きな崩壊を防いでいるのよ。いろんな考えの人間がいてこそ、調和が成り立つ』

「いいえ……!」


 玉響の言葉をとても受け入れられず、夜風は首を横に大きく振る。目を背け都合よく考えたがる甘えを叱咤し、後ろ手の拳に爪を突き立てながら怯えるまぶたを開いた。

 満月のように神々しく光る玉響が夜風を見下ろしていた。


「人間たちは、私たちは醜いです……! 自分勝手にゴミを捨て、気に食わない相手を蹴落とし、妬む気持ちを止められない……! それにこの野犬騒動だって……」


 氷人が寄越した通信オウムは『ハメられた』と言った。畜産農家に出現した野犬は、アクレンツェから実動隊の目を逸らすための囮だと。それが事実なら一連の事件はすべて、裏で野犬を操る人物がやったことになる。

 玉響は人間同士の争いに巻き込まれて死んだのだ。

 夜風はワッと顔を覆い震えた。


「私たち人間が愚かにも精霊の力に手を出さなければ、玉響さんは死なずに済んだのに……!」

『それは違うわ、夜風』

「いいんです、やめてください。こんな時までやさしくしないで……っ」


 玉響のおだやかな性格が紡ぐやさしい嘘だと思った。血も遺体も砂となって消えようと、玉響を失った事実は消えない。

 夜風はキッと目をつり上げ、いまだ震えの収まらない手で精霊石の数珠ブレスレットを手首から引き抜いた。これも玉響の仲間の亡骸だ。その犠牲の上で夜風は実動隊員を癒し、誇らしさなんか抱いていた。

 偽善でしかない過去の自分ごと、ブレスレットをきつく握り込む。


『だって夜風は自然を愛してくれたでしょう』


 拳を通路に叩きつけようとした瞬間、確かに感じた。少し低いぬくもり、水畑仕事でかさついた肌の感触、けれどもやわらかくてとても安心する玉響の手が振り上げた拳を包んでいた。

 見ると夜風の手の周りを青く淡い光が寄り添っている。

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