137 見つけたよ②

 銀河を見上げた目に新しい涙はなかった。


「あなたを見つけられてよかったです」


 絡めた指から体温とともに安堵が伝わってくる。それをもっと感じたくて、夜風は銀河の手に頬をすり寄せた。


「夜風……」


 ひくりと震えた手に強く握り返されて、引き寄せる銀河に夜風は抗わなかった。

 真剣な眼差しは隊員を前にした朝陽ととてもよく似ている。けれど、ふとした瞬間に浅瀬色の水面は揺らいで、その奥に潜む脆く儚い闇を垣間見せる。

 銀河はそれをもう隠そうとしなかった。まだ少し涙の膜が残り赤らんだ目で、それでもまっすぐに夜風を見つめる。


「なんでキスしたのかって聞いただろ。あの時はぐらかしたのは俺のほうだった。ずっと言葉で……いや、俺自身で伝える勇気が持てなかったんだ」


 迷いが彼の瞳をかげらせる。夜風はとっさに宝玉を握った手を銀河の頬に添えた。

 自分の気持ちなんてわからなかった。玉響のことも野犬騒動のこともまだ整理がついていない。銀河を放っておけない愛と、診療所の患者を放っておけない愛の違いもきっと区別できていない。

 だけど銀河が他でもない自分自身として、一歩を踏み出せるのが今この瞬間だというならどんな言葉も飲み込んで欲しくなかった。


「夜風。俺はお前のことが――」

『無事でよかったね! 夜風も銀河も』

「そう、無事でよか……じゃなくて! 邪魔すんなよビク丸、さん……?」


 長い首をひねり繋いだふたりの手に鼻をつけたビク丸を見て、銀河は固まった。その反応に夜風はもしやと思って声を弾ませる。


「銀河さんにもビク丸ちゃんの言葉がわかりますか!」

『僕は夜風の友だち。夜風の友だちは僕の友だち。喋れるなんて当然だね』

「待て待て待て。変な理屈で片づけようとするな。だってお前さっきまで『ミーミー』としか……」


 そこまで言って銀河はなにか思いついた顔をして閉口した。夜風と繋いだ手をそっと離し、体のどこも触れないように身を引く。そしてビク丸に、なにか喋ってみろと言った。

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