136 見つけたよ①

 腑に落ちてもまだ胸は高鳴りどこか夢心地だった夜風は突然、両脇を抱えられて引き上げられた。銀河は濡れるのも構わず夜風を腕に閉じ込め、まるで姿形を確かめるように頭や背中や頬に触れる。


「よかった……! もう見つからないかとっ! お前を、失ったのかと思……っ! ばか夜風え。なんで危ないとこに来るんだよ……! バカ。バカ。ばかあ!」


 苦しいくらいの締めつけに、その分だけ銀河に心配をかけたのだと夜風はじんわり自覚した。肩口に押しつけられた銀河の唇から、噛み殺し損ねた嗚咽がこぼれてくる。

 夜風はああそうかと気づき、自分からも銀河を抱き締め返した。


「だってそれは銀河さんが急にいなくなるからですよ」

「俺は、ビク丸に乗って港島に戻れって言っただろ」


 言った、だろうか? まるで覚えがない。玉響の遺体を発見してしばらくはひどく記憶があいまいだ。

 銀河やビク丸の様子はもちろん、自分がなにを考えどうしていたのかも思い出せない。気がつくと、砂となって崩れた玉響の体から瑠璃色の光が放たれていた。


「だって私は、銀河さんがひとりで犯人を追いかけたんだと思って。ひとりじゃ危ないから助けなきゃって。そしたら、銀河さんが野犬に、襲わっ、れ……玉響さんみたいに、けが、したら、どうしようってえ……!」


 夜風は今になって恐怖が込み上げてきた。震える手で銀河の背中にしがみつき、唇を噛んで競り上がってくる嗚咽を飲み込もうとする。

 もうだいじょうぶ。銀河は無事だ。そう自分に言い聞かせ押さえつけようとする隙間から、感情はぼろぼろとこぼれてしまう。


「全部銀河さんのせいですっ、ばかあ……! ひとりで突っ走るからいけないんです……!」

「ああもう、わかった。俺のせいでいいから。泣かないでくれよ」


 銀河は指ぬきロンググローブの甲で夜風の涙を拭おうとしたが、うまくいかなかった。もどかしげにうなって、指先で払うように涙を止めようとする。

 慣れない仕草は少し乱暴で、危うく指が目に入りかける。夜風はそっと銀河の手を捕まえた。不器用だけれど彼のやさしさは夜風の心まで届いて、ぽかぽかと暖めてくれる。

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