102 サプライズ③

「そんなんだから兄貴は彼女できてもすぐフラれるんだよ」

「俺になりすまして本命に近づくお前に言われたくねえわ! だってまさか女の子送り込んでくるとは思わねえだろ。氷人めえ!」

「え。ちょっと朝陽隊長。こっちにも説明欲しいんですけどお?」


 手をひらひらと振って主張する副隊長に、夜風は改めて自己紹介しようとした。だが肩に回った彼の手が離してくれず、目で訴えても知らんぷりされる。夜風は仕方なくその場で小さな一礼をした。


「えっと。改めまして私、ローレライ治癒団第三支部に所属する治癒師の夜風です。騙していてすみません」

「ローレライの治癒、え。ってことは女子!? うそでしょ、だって胸ぺったん――」


 なにか不届きなことを口走ろうとした副隊長を夜風は目で黙らせる。言っておくがまな板ではない。あくまでも実動隊服に使われる生地が上等でぶ厚く、それでちょっとわかりにくくなっているだけだ。


「いや、でもほんとびっくりした。あの重体者を短時間でふたり同時に治癒しちまうなんて。正直、養成学校卒業したら氷人より先に俺が引き抜いてやろうって思ったくらいで。っておーい。なにやってんの」


 朝陽が喋っているうちに、夜風は彼に肩を抱えられたままずるずると引きずられていった。まっすぐ戸口を目指す横顔に困惑の視線を向けると、彼はむすりと唇をひん曲げる。


「兄貴はああやってすぐその気にさせる人たらしだ。夜風は聞かなくていい」


 銀河ちゃーん、と朝陽の声が追いかけてくる。それはなんとも気の抜けたもので、本気で引き止めるつもりはないとわかった。

 しかし兄の声というだけで琴線に触れるものがあるのか、彼は鋭く噛みつく。


「うっさい! 夜風と話せって言ったのは兄貴だろうが。邪魔すんな!」


 その勢いのまま荒々しく開けた戸を閉めようとして引っかかり、放置していった弟を朝陽はため息で見送る。代わりにきちんと閉めてくれた氷人の優秀な補佐官は、すべてを察した目で振り返った。


「白夜ちゃんはぜひ俺と氷人隊長で育ててあげたいと思ったけど、売約済みみたいですね」

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