101 サプライズ②
「……つまり
「違う、銀河。そうじゃない。俺が言いたいのは――」
「兄貴の話なんてもうたくさんだ! あんたに俺の気持ちがわかるかよ!」
黒服の人物は朝陽の手を振り払い肩を強く突き飛ばした。ガーゼやピンセットなどの物資が乗る木箱へ、よろめく朝陽を夜風は寸前のところで支える。
ふたりに押された木箱から消毒液のビンが転がり落ち、ガシャンと割れた。
「えっ。夜風……?」
呆然とつぶやいた黒服の人物の頭からはらりとフードが外れ、見事な赤髪があらわになる。整った顔立ちも背格好も声も、朝陽と瓜二つ。ただ、こぼれんばかりに見開いた目は美しい浅瀬の海色を湛えていながら、夜風が見つめ返すとかげりを差した。
この瞳を知っている。
薄暗く冷たい場所をこじ開けて夜風を迎えに来てくれた。痛みを伴う過去で寄り添い「かっこいい」と励ましてくれた言葉に光を感じて、この人のようになりたいと願った。
華やかに堂々と輝く太陽の裏で、影に隠された知りたかった素顔とはこの人なんだと気づく。
「あなたは、朝陽さんの弟さん……? 双子だったんですか」
「ちょおおお! ちょっと待って。先こっちいい? 銀河お前今、この少年を夜風ちゃんって言った?」
「いえ、朝陽隊長。そのぼうずは白夜って名前です。氷人隊長からそう紹介されてます」
「なに言ってんだよ、ふたりとも。どう見ても夜風だろ」
夜風は黒服を着た赤髪男に手を引かれた。とても不思議な感覚だった。夜風が少年だと信じて疑わない兄と副隊長を見やる呆れた表情も声色も、朝陽そのものだ。
こうしてふたりを前にしてもまだ幻を見ているかのような心地の夜風から、彼はゴーグルとベールをそっと外し朝陽の前に立たせる。
しばしの間があった。
「うそだろ!?」
と、叫んだ朝陽は夜風の肩を掴もうとする。しかしそれより早く伸びてきた彼の手が夜風を引き寄せた。
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