100 サプライズ①
憎めない笑みで謝りつつ、朝陽は「でも」と言葉を繋ぐ。
「真面目な夜風ちゃんの言葉に嘘はねえんだよな。気兼ねなくつき合えて、いっしょにいると安心する。そんな雰囲気のいい子だよ」
朝陽に惹かれた時間、想いを告げた勇気が報われた気がした。とたんに込み上げてきた熱いものを深呼吸で散らして、夜風は「ありがとうございます」と伝える。朝陽には「なんでお前がお礼言うの」と笑われてしまったが、これでよかった。
そこへ納戸を叩く音が響く。
「朝陽隊長、今いいですか」
戸口からそっと中をうかがう人物は全身黒い服を着ていた。素の自分に戻った休日の朝陽が身にまとっていたものとよく似ている。
もっとよく見たかったが、朝陽が「入れ」と返事したことで夜風は副隊長に呼びつけられた。立ち聞きは無作法ということか。
さっと患者たちの様子を確認してから、夜風は壁に沿って出入り口へ向かう。入れ替わるように中へ踏み込んできた黒服の人物とすれ違うせつな、深々とかぶったフードから赤い毛先がちらりと見えた。
「え……」
夜風は思わず立ち止まり振り返る。もたもたしている手を副隊長に掴まれて引っ張られた。それでも黒服の背中から目を逸らせない夜風の視線の先で、来訪者は抑揚のない静かな声で報告をはじめる。
「怪しい人物を発見。追跡しました。が、自害されました」
「情報は。少しでも聞き出せたのか」
「……いえ。なにも」
瞬間、大きな物音が納屋を震え上がらせた。朝陽は横の壁を殴りつけた手で黒服の人物に掴みかかる。
「お前はいつもそうだ! 功を焦って突っ走りやがる! 旧市街島に野犬が出没したのも、お前が無謀に深追いしたからだろうが!」
「無謀じゃない!」
黒服の人物は吠えて朝陽の胸ぐらを掴み返した。
「あと少しで手がかりを掴めそうだったんだ! 俺はただ一日でも早くアクレンツェの平和を取り戻したいだけで」
「それが先走ってるっつってんだよ。いいか。これはお前ひとりがどうこうできる問題じゃない。そして俺たちにはそれぞれ役割があって組織で動いてる。お前は、諜報員としてできることに専念してればいいんだ」
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