24 産業医・鏡花②
「これ夜風ちゃんの勤務表ね。ここに始業時間と終業時間を書いて、帰る時あたしからはんこもらえばオッケー! なんだけどお……」
ひらりと書類を舞い戻して、鏡花ははんこを手に持ったかと思うと十五日分一気に捺してしまった。
「えっ。いいんですか」
「だってこっちのほうが手間ないし捺し忘れたってことにもならないでしょお?」
二重丸の中に鏡花の名前が刻まれた認め印つきで手渡された書類を見て、夜風は苦笑する。これでは確認の意味がない。だけど合理的でシンプルな鏡花の考え方は嫌いじゃなかった。
「ん? ちょっと待ってください」
きれいに隙間なく並んだ認め印に気づき、夜風はとんきょうな声を上げる。鏡花のはんこは土日にもしっかり捺されていた。平日も当然のごとく空欄はない。
「ってことは、もしかして十五連勤!?」
「だって土日は休みたいじゃない」
「私も休みたいですが!」
鏡花は頬に手をあて困った顔をした。
「土日は治癒師ひとりが交代で勤務することになってるのよ。でも今は夜風ちゃんしかいないの」
「ひとり!? えっ、医師の許可なく治療したらダメですよね!?」
治癒師は医師免許を持たない。なので緊急時を除き治療には医師の同伴、または判を捺した指示書が必要だ。往診のように指示書があるのかと考えた夜風だが、鏡花に軽く笑い飛ばされた。
「だあいじょぶよ。土日ってそもそも人が少ないの。医務室に来るのは徹夜明けの研究員か、訓練がんばり過ぎたセキュリティ部の隊員くらい。どっちも治療というほどのことじゃないから事後報告で十分よ。……まあ隊員はたまーに重傷で担ぎ込まれてくるけど」
「最後なにか言いました!?」
「なんでもない、なんでもない! とにかく大きな怪我をしてくる人なんていないわ。報告書のファイル、あとで見せてあげるからそれと同じようにやってくれればいいのよ」
じゃあなにがどこにあるか説明するわねん、と言って鏡花は席を立ち話を変えてしまう。上司が妙に励ましてきたのはこのせいかと勘ぐる。
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