10 キスの余韻②
わざと明るい調子で声に出してみても、胸に吹きさぶ風は止められない。玉響の前では大人ぶり忘れようともしたけれど、夜風にとってはじめてのキスは野犬から無事逃げられることと同じくらい大事な意味を持っていた。
「最低よあんなやつ。バカ。バカ。バカ!」
ローレライ治癒団が格安で用意してくれる社宅アパートもあった。けれど門限や居住者以外立ち入り禁止といった制限を嫌って、勤務地から少し遠い玉響の下宿に決めたのは、素敵な出会いに憧れていたからだ。親元を離れ都会に出てきた十七歳の田舎娘は、
ふと、気づけば旧市街島と中ノ島を結ぶ橋まで来ていた。ちょうどいい。少し風と水音に癒されようと中ほどまで歩みを進めたが、なにやら騒がしい集団がいた。
環境破壊反対、と書かれたプラカードを見れば反エクラ派の人間だとわかる。しかし彼らは看板を地面に放り出してその傍らに座り込み、缶ビールを呷りながら大音量の音楽を流していた。真面目に環境を考える気があるのか疑わしく、ただ集まって騒ぎたいだけのような輩も最近では目立ってきている。
今日はツイてない。諦めてきびすを返しかけた夜風の耳に、カラカラと物音が流れてくる。誰か蹴ったのか、空き缶が転がっていた。それが欄干の柱にぶつかって止まり、あとひと押しで川に落ちそうになっている。
夜風は慌てて駆け寄りゴミを拾い上げた。
「意味わかんない。ゴミが勝手に消えてなくなると思ってるの? どっちが環境を破壊してるのよ」
夜風に手放しで本社を
しかしエクラ反対派の抗議デモや集会のあとに、平然と残されていくゴミについては心底理解できなかった。それを黙々と片づけさせられている近隣住民や、エクラの実動隊員のほうがよほど文句を言いたいだろう。
「なんだあ、お前。俺らになんか用?」
振り返った時にはふたりの男に囲まれていた。夜風が拾った缶ビールを見て不機嫌そうに顔をしかめる。
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