11 再来・赤髪男①

「なんでそれ拾ってんの。それはエクラのやつに片づけさせるゴミだぞ」


 ゴミを強調して男はもうひとりの仲間とケタケタ笑う。近づいただけで酒のにおいが漂ってくる男らは見るからに話の通じる相手ではなかった。そうですか、とうなずいて空き缶を置いて去るのが利口だ。握っているものは夜風にとってもゴミでしかない。

 だけど手放した瞬間、自分自身も彼らと同じところまで落ちることになる。


「……どうしてゴミを捨てるんですか」

「あ? なんか文句あんのかよ」

「エクラは奉仕が好きだろ。だから俺たちがご奉仕の機会を与えてやってんだ」


 夜風は無意識に左手中指をなでていた。そこには普段なら人魚のひれを模した指輪がはまっている。


「抗議活動とゴミを捨てることは別問題だと思います。なるべく拾って帰ってくださいそれでは!」


 言いたいことを言って逃げるのが夜風の精一杯だった。男たちの脇をすり抜けていこうとしたのだが、二の腕を掴まれる。突き飛ばされた先にいたもうひとりの男に肩を強く押さえられた。


「まあそう急ぐなよ。お前も奉仕が好きなんだろ」


 夜風の手から空き缶を奪い、男はそれを川に向かって投げ捨てる。ショックを隠しきれない夜風の顔を覗き込んで、男は下卑げひた笑みを浮かべた。


「だったら俺らにご奉仕してくれよ」

「お。いいね、それ」


 一瞬呆けた夜風は、その意味を理解して沸々と怒りが込み上げてきた。仲間の提案にゲラゲラ笑っている男の足へ、高々とひざを持ち上げた時だった。


「ハイ、ハニー! 待たせちゃった? ごめんね」


 突如、空き缶を投げ捨てた男の肩に男がしなだれかかってきた。新たに現れた男は「でも」とつづけながら立てた指をひらひら振る。


「怒った顔もかわいいぞ、と」


 語尾に合わせて人さし指がゴミ投棄男の鼻先をちょんっとついた瞬間、真夏の夜に超局地的ブリザードが吹き荒れた。


「え。お前そんな趣味が……」

「ねえよ!?」


 夜風を捕まえる仲間にあらぬ目で見られて、ゴミ投棄男は力いっぱい絡んできた男を引き剥がした。

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