12 再来・赤髪男②
ブリザードを呼ぶ男は上半身をぐらりと揺らし、千鳥足で夜風の前に来る。夜風は乱れて顔にかかった男の長い赤髪からも、その隙間から自分を見つめる浅瀬のような水色の眼差しからも目を離せなかった。
「おっと。間違えちまった。俺様のかわい子ちゃんはそこだな」
髪をみつあみではなくハーフアップにして、服も部屋着のようなラフなものに変わっていたが間違いない。昼間ここで野犬に襲われていた男性だ。
声もなく驚く夜風に男はにやりと笑いかける。「ちょっとごめんよ」と断りを入れ、夜風の肩を掴む男に手を伸ばしたかと思うと指をひねり上げた。
男の悲鳴が響く。指は不自然な曲がり方をしていた。離れたところでおもしろがっていた他の仲間たちから笑みが消え、立ち上がる。乱暴にどかした男の手の代わりに、赤髪の男が夜風の肩に手を回してスカッと外れた。
「あっくんだいじょうぶかよ!? くそっ。やりやがったなてめえ、って寝てるー!?」
夜風の肩を抱き損ねた赤頭は、そのまま地面にダイブして寝ていた。やけにふらふらしていると思ったが、こちらも相当の酒を入れている。大方、橋を渡った先にある繁華街帰りだろう。昼間、野犬に噛まれた傷がそのあとどうなったかと、ちらとも考えなかったわけではないが心配損だった。
「お、お前の彼氏どういう神経してんだよ!」
「彼氏じゃありません」
秒で否定する。一応助けてもらったような形になったが、それくらいでファーストキスの恨みは晴れない。夜風からしてみれば目の前のチンピラも赤髪男も大差なかった。
「あとは若いおふたりに任せますので好きにどうぞ」
「お見合いみたいに言ってんじゃねえぞ!? 先に手出したのはお前の彼氏だからな! 落とし前つけずに逃げられると思うな!」
手首を掴まれて夜風は抵抗したがビクともしなかった。あっくんと呼ばれた男は折れた指の痛みがひどく、合流したふたりの仲間に支えられてよろよろと歩き出した。
男たちは港島の倉庫に連れていくだの、そこで縛るだのと恐ろしい会話をしている。夜風は背中で両手をひとまとめに掴まれながら、寝こける赤髪男を振り返った。
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