13 再来・赤髪男③

 どんなに許せなくても、信用ならなくても、夜風が今頼れるのは彼しかいない。


「助け、て」


 いざとなると声が詰まった。本当に助けてくれるのか。迷惑じゃないだろうか。虫のいい頼みかもしれない。夜風がぐるぐると迷っている間も赤髪男はのんきに寝ている。

 人の気も知らないで。

 夜風の迷いは怒りへと矛先を変えた。


「助けるならちゃんと助けなさいよ! このろくでなしー!」

「はっ。やべ。寝てた」


 赤髪男は「とう!」と言いながら飛び起き、柄の悪い連中の前に立ちはだかる。そこで両手を斜め上に掲げ決めポーズを取った。


「いえっさー! 俺様のプリンセス! 今助けますうー!」

「なんなのこいつ」


 夜風を捕らえるゴミ投棄男がめんどくさそうにつぶやく。


「俺はその子のろくでなし彼氏でえええすっ!」

「違います」


 目元に横ピースを添えて堂々とねつ造発言する男が一体なんなのか、夜風にもわからない。ただ泥酔して言動がおかしくなってしまった人にしか見えないが、助けてもらいたい身としてはそれでは困る。夜風はせつな、祈るように夜空を見上げた。


「ただのアホだろ。おい、あっくんのお礼がまだだったよなあ!」


 指を折られたあっくんに手を貸していた仲間のひとりが、そう言いながら拳を振りかぶり赤髪の男に向かっていった。夜風は思わず目をつむる。

 直後、鈍い音がして誰かが倒れ込んだ。


「え……?」


 そろそろと開いた目を夜風はこぼれんばかりにまるめる。チンピラの男が地面に伸びていた。鼻と唇から血を流してピクリとも動かない。男は気絶していた。その呆気ない姿を見下ろして赤髪男はにやりと笑う。


「調子に乗ってんじゃねえぞ!」


 あっくんの横からもうひとりの仲間が挑発に誘い出された。彼はプラカードを両手に握り締め、振り下ろす。しかし軽いステップを刻んだ赤髪男の足が空を横切ると、プラカードの柄は薄氷のように容易く砕け、先端の板が石畳の上を滑る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る