104 朝陽の裏側②

「黙っててごめん」

「どうして朝陽さんのふりを……?」

「合わせる顔が、なかった。俺は養成学校の落ちこぼれ。兄貴はエリート中のエリート。同じ日に生まれて同じ日に入学したのにこの差だ。双子なのにとか、兄貴は優秀なのにとか、比べられることに疲れて」


 銀河は嘲笑を混ぜてもどかしげに言った。しわが深く浮かび上がるほど胸元を握り締める手が視界に入り、夜風もうつむく。

 たとえば鏡花きょうかのような姉がいたらと想像した。才色兼備の自慢の姉だ。

 けれども姉妹ほど近いと嫌でも視界に映ってしまう。称賛される姉。人に囲まれ愛される姉。隣が色鮮やかに輝けば輝くほど、自分の味気ない世界が際立つ。

 加えて朝陽と銀河は双子だ。兄と間違えられるほどの容姿は自然と比較する目も厳しくなっただろう。いっそ光の影を演じてしまったほうが楽だと、夜風も同じ道を選んだかもしれない。

 ふと、銀河が押し殺した笑い声をこぼした。


「でも結局、俺はなんにもできなかった。兄貴は夜風と連絡先交換して、手料理食べて、デートして。俺が欲しかったもの全部持っていっちまう。俺は所詮、あいつの光に掻き消される星くずなんだ」


 その言葉が夜風の中にもある同じ痛みを呼び覚ました。弾かれるように顔を上げたものの、銀河が朝陽と重なってビクフィファームで過ごしたひと時がよみがえる。

 あの時朝陽がくれたたくさんのやさしさやぬくもり、そして笑顔に惹かれた。恋は叶わずとも、変わらず彼のように輝ける自分になりたいと思う。

 好きです、と伝えた相手は間違いではなかった。半分は――。


「兄貴と、うまくいくといいな。応援はできないけど、もう邪魔しないよ。じゃあ……」


 言いながらあとずさり、銀河は木陰に溶けていく。たとえ暗がりの中にあっても、月明かりや薄雲に容易く隠されてしまう小さな星へ、夜風は手を伸ばした。

 その際ぶつかって井戸の縁に当たったバケツの反響が、すでに歩き出した銀河の足を止める。

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