113 旧市街島へ②

 満足げなうなずきをひとつ落とした朝陽は、夜風と銀河を見比べてにんまり口角を持ち上げた。


「だから仲間を頼れって言っただろ? 夜風ちゃんと銀河ちゃんは似た者同士だな」


 玉響や旧市街島のみんなが心配なあまり先走っていたことを自覚し、夜風は人のことを言えないと頬を熱くする。隣でうつむく銀河は兄にからかわれて反発するかと思いきや、この時ばかりは大人しくしていた。


「五匹か。上々だわな」


 階段で地下一階の水路に下りた夜風たちを、氷人伝いに連絡を受けた社員が三匹のビクフィの手綱を持って待機していた。

 それを見て五匹という計算をした朝陽は、自分を含め計七人いる面々をふたりずつ組ませる。夜風が銀河と組むことになったのは意図的だ。役得だねえ、とにやついた朝陽の小声が聞こえてしまった。

 兄に突き出した銀河の拳があっさりかわされたところで、社宅マンションに向かった隊員たちが水路から戻ってくる。

 ふたりが跨がるビクフィのうち、ひと回り体の大きい個体は近づいてくるなり夜風に頭をすり寄せてきた。


「ビク丸ちゃん!」

「ミー!」


 左右の目元にちょんとついた黒丸のチャームポイントを見て、夜風は朝陽の愛ビクフィを抱き締める。デートからいっしょに帰ってきてまだファームに戻っていなかったのか、社宅のプールにいたらしい。

 夜風のことを覚えていて無邪気に甘えてくるビク丸に、夜風はまた涙がこぼれそうになった。


「そんじゃあ、夜風ちゃんと銀河はビク丸に乗ってくれ」

「え。いいんですか?」

「夜風ちゃんはビク丸と相性がいいからな。実はうちの銀河ちゃん、手綱捌きに不安があんのよ。昔振り落とされたのがトラウマで」

「兄貴!」

「だから夜風ちゃんが手綱握ってよ。俺が手取り腰取り教えたこと、覚えててくれてるでしょ?」

「腰取りってなんだ! まさかセクハラしてねえよな!?」

「はい。もちろん覚えてます。忘れませんよ」

「夜風えええっ。なんでそんなうれしそうに……。やっぱり夜風は兄貴のことが」

「銀河さん早く乗ってください」

「ハイ。スミマセン」

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