112 旧市街島へ①

 しまいには機体の足にしがみつくからいいとまで言った夜風に折れてくれたのは、氷人隊の副隊長と銀河だった。

 副隊長は重体者を処置した能力を高く評価し、夜風を推してくれた。銀河は席がないなら俺が抱えると、ちょっとうつむき加減に妥協案を提示してくれた。

 うなるように夜風の同行を許可した朝陽は、納得したというよりも問答の時間を惜しんだ様子だった。


「待てって! 誰を探してるんだ」


 足早に通り抜けながら避難してきた住民たちの顔に気を取られていると、銀河に追いつかれた。手首を掴む手を嫌がって身を振る。しかしそれよりも強い力で振り向かされる。

 確認しなくとも薄々わかっていた夜風の目には涙がにじみ、銀河に息を詰まらせた。


「旧市街島の高齢者がっ、私の往診先のみなさんが来ていません! それに玉響さんも……! 足腰が悪いからきっと避難を諦めて家にいるんです! 行かないと。助けを待ってるに違いありません!」

「ダメだ! 危険過ぎる!」


 止められてもなお振りきろうとした夜風の脳裏に、すき焼きをいっしょに食べて微笑んでくれた玉響の姿が過った。


「そう、危険だ。陸路はな」


 ぽんっ、とやさしいぬくもりが頭に置かれた。目を起こすと朝陽はにっと笑い、へなへなオウムに向かって声を張る。


「氷人。俺たちは旧市街島にいる避難困難者の捜索及び救助にあたる。社のビクフィは何匹残ってる」

『あー。たぶん五匹もいないな』

「至急確認して社の地下水路に待機させてくれ。それと、お前のビクフィ借りるから。社宅マンションの共用プールにいるだろ」


 言いながら朝陽は部下に目配せする。氷人が『えー』と不満の声を上げた時には、意を汲んだ部下ふたりがすでに走り出していた。


『わかりましたよ。俺のメリュジーヌちゃんに怪我させんなよ。野犬は俺らが橋で引きつけてる。でも街中に何匹いるかわからない。気をつけろ』


 愛ビクフィの名前を口にして渋る声から一変、氷人は緊迫した空気で忠告する。そしてすぐに人を呼びつけ、指示を出す氷人の声は遠ざかっていった。

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