80 朝陽の告白①

 ふざけて逃げ回る朝陽の背中に夜風は飛びついた。まだ遊びの延長だと思っている彼の服を強く引いてすがる。勇気を出して額をすり寄せた背中はかすかにひくりと震えた。

 やっぱり私じゃダメ? とたん臆病になる心を叱咤して、ぎゅっと閉じた目を開き驚く朝陽の顔をまっすぐ見つめる。


「今日だけじゃなくて、明日もずっと私だけの朝陽さんになってくれませんか」

「夜風ちゃん……」

「意味、わかってますよ。勘違いでも、一時いっときの感情なんかでもありません。私は……私は朝陽さんのことが好きです……!」


 夜風を映す朝陽の目にせつな、複雑な感情が浮かび揺れ動いた。彼はそれをうつむいて隠し、服を掴む夜風の手をそっと外させる。

 正面から向き直った朝陽は困ったような笑みを浮かべ、いつもの軽い調子を取り戻そうとして失敗したあいまいな声を絞り出した。


「泥酔して夜風ちゃんに助けてもらった時な、あの日彼女にフラれたんだよ。そんでひとりヤケ酒してた」


 朝陽は居心地悪そうに首を掻いて顔を逸らし、うなる。


「でさ、次の日になってもモヤモヤは晴れなくて。氷人ひょうどに気に入られる夜風ちゃん見てたら、その……絡んでみたくなっちまったんだ。世話になった人だとも知らずそんなことしちまった自分が許せなくて、夜風ちゃんに申し訳なくて……デートを申し込んだ。デートなら夜風ちゃんを楽しませられる自信があったから」

「私と、デートをしたのは罪悪感……?」


 確かにはじまりは互いにお礼のためだった。玉響が期待した好意を否定した通り、夜風自身もそんな気はなかったはずだ。

 なのにデートの日が近づいてくると浮かれる心を止められなかった。服を何日も前から悩んだり慣れないヘアカフを買ってみたりして、楽しみにしている自分がいた。そんな夜風と同じように、朝陽も約束より早く来るくらい期待してくれたんだと知って舞い上がった。

 服を褒めてくれてうれしかった。

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