81 朝陽の告白②

 ずぶ濡れになった夜風を女の子として気遣うやさしさや、ビク丸の手綱をいっしょに持って重なった体温に、何度もドキドキした。水浸しになったサンドイッチをおいしいと言ってくれた彼も、夏の恋歌を口ずさむ彼も、胸が締めつけられるくらい輝いて愛しくて、恋せずにいられなかった。

 私の冗談に笑ってくれるあなただから、身に余る夢を見てしまった。


「そう、ですよね。私もわかってたんです」


 私はくず星。あなたは一等星よりも遥かに煌めく絶対の恒星。大地をあまねく照らすその光で私は掻き消され、本来ならその目にも留まらない存在。


「私じゃどうやってもあなたと釣り合いっこない……」


 わかっていた。自分には特別秀でた能力も美しい容姿もない。それでも素敵な男性に見初められて愛される恋愛小説の主人公のようにはいかないことくらい、現実を理解していた、はずなのに。


――ブスが調子に乗ってんじゃねえよ。


 ああ、ほんとにあの女性研究員たちの言う通りだった。かっこいいとかかわいいとか社交辞令を真に受けて、その気になっていたのは自分ただひとりとも知らない憐れな道化だ。


「ごめんなさい。忘れてください。私のことは、もう……」

「待って、夜風ちゃん」


 腕を掴まれた瞬間、このぬくもりに胸を高鳴らせていた自分が過る。あんなに幸福だったものが今はもうバカらしくて、みじめで、いっそ泡になって消えてしまいたいくらい苦しい。


「いいんです。慰めなんか聞きたくありません……!」

「違うんだ! きみに伝えなきゃならないことがもうひとつある!」


 逃げようとした体を許さず朝陽は痛いくらいの力で夜風の肩を掴んだ。思わず怯える夜風をどこまでも光を通す澄みきった瞳が見つめる。


「夜風ちゃんが本当に好きになったのは、俺じゃない」

「え……」

「あいつは卑怯だ。でも頼む。あいつを見つけてやってくれ。夜風ちゃんならそれができる。いや、あいつはずっと夜風ちゃんを待ってるんだ」



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