第4章 行かないで
82 不可思議な野犬①
港島に鎮座するエクラ精霊魔装具会社の本社ビル六十階。セキュリティ部門実動課にあてられた資料室で、
「んー。ハイウルフだろ? やっぱどこ探しても毒を持ってる記述はないな」
『おかしいなあ。あの脚の長さと白っぽい体色はハイウルフに似てたんだけど』
傍らの棚にとまった黄色い折り紙のオウムが返事する。その声は本土で野犬被害に遭った畜産農家の集落へ向かった朝陽のものだった。
黒鳥の結晶体から生まれた通信魔装具によって魔力を吹き込まれた黄紙はオウムとなり、リアルタイムでの会話を可能にする。
朝陽が放ったオウムから野犬の特徴を聞き、その種類の特定に努めていた氷人はハイウルフとは別のファイルを手元に引き寄せた。
「毒って言ったらダークウルフじゃないか? 諜報課はこっちの線を疑ってるぞ。こいつは人里に近い山の中に棲んでるからな。まあ、縄張り意識が強くて滅多に出てこないってところが引っかかるけど」
『ダークウルフって黒っぽいブチ模様だろ?』
「そうそう。耳がまるっこくて鼻も短め。下あごから生えてる二本の牙に毒持ってるやつ」
『そんな感じじゃねえんだけどなあ。……あとさ、気になることがひとつある』
一段低くなった朝陽の声に氷人はファイルをめくっていた手を止め、黄色いオウムを注視した。
『うちの隊の新人や農家を優先で狙ってくる。前線にいる俺を無視して』
「まさか。弱い者を見極めてるって言うのか? 子どもや負傷者が狙われるのはわかるが、大人の中からそこまで嗅ぎ分けられるなんて勘が良過ぎるだろ。それとも優秀な群のリーダーがいるのか。いや……」
頭のいい個体の存在も否定しきれないが、氷人は朝陽の口ぶりからもっと嫌なものを感じ取り閉口する。その沈黙の意を汲んだ朝陽はうなずき返し、氷人が脳裏に描いたことを代わって口にした。
『どっかの反抗勢力が裏で糸引いて、犬操ってるかもな』
「諜報課のやつらのケツ叩いてくる」
『ぜひそうしてくれ。っていうことでさあ』
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