第2章 あなたをもっと知りたい

16 慌ただしい朝①

 蒸し暑さにうなされて朝陽あさひは目を覚ました。


「うへえ。なんだこれ」


 欠伸をしながら首裏に手をやると寝汗で髪がぐっしょり濡れていた。昨日は冷房もつけずに寝てしまったらしい。お陰で朝から肌がベタついて気持ち悪い。おまけに身を起こした拍子に埃っぽいにおいまでした。


「あれ。昨日風呂入らなかったっけ」


 おぼろげな記憶をさかのぼりながらつぶやいた時、口の中でジョリッと不快な音が鳴る。


「うええっ! ぺっ! ぺっ! なんだこれ砂? 昨日の俺マジでなにしてたんだ?」


 舌の上にある違和感を手のひらに吐き出してみると少量の砂が出てきた。よく見ると服も土埃で汚れている。自分でもまったく意味がわからなかった。

 昨日は中ノ島の繁華街で飲んでいたはずだが、どうやって家に帰ったのか覚えていない。頭がひどく痛んだ。酒には強いと自負しているが、これは久々に強烈な二日酔いだ。


「とりあえずシャワー浴びて……」


 ひとりごちて、ナイトテーブルの時計を振り返る。しかしそこは見知らぬ壁だった。小棚も時計もない。


「は……。え?」


 背中側の窓も消え短い廊下が伸びており、足のすぐ先には玄関扉がある。朝陽は自宅のふかふかベッドではなく、どこかの家の廊下で敷物一枚敷いただけの床に転がされていた。


「いや、俺様の扱い雑っ。じゃなくて、まさかどっかのの家に上がり込んじまったか?」


 申し訳程度に引っかけられたタオルケットをどかし、廊下からフラットにつづいている部屋がリビングだとあたりをつけて覗き込んだ。こじんまりとしたダイニングテーブルには誰も座っていない。

 だがさらに奥、すりガラスの引き戸越しに女性らしき人影が見えた。そこはキッチンになっているのだろう、食器の触れ合う音が聞こえてくる。

 朝陽は女友だちの家だと確信した。今まで上がったどの家とも見覚えはないが、きっとまだ招待されたことのない女の子と繁華街でばったり会って、なんやかんや世話になる運びとなったに違いない。

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