108 罠①
水滴から顔をかばいつつ目を凝らした夜風は、茶色いものが通信用の油紙だと気づいて叫ぶ。
「銀河さん止まってください! 今取りますから!」
「取って取って! でも怪我しないように気をつけて!」
頭をこちらに向けて銀河が立ち止まるのを確認してから、夜風はそろりと近づいた。やはりそれは誰かが魔装具で飛ばしたオウムの折り紙だった。
しかし耐水性に優れた油紙でも間に合わないほどの水分を含んだらしく、重くて飛べずにいる。
夜風は羽ばたきが止まったところを見計らい、油紙のオウムをさっと捕まえてすかさず送り主に呼びかけた。
「こちらローレライ治癒団の夜風です。送り主さん聞こえますか」
つい仕事の癖でローレライ治癒団と名乗ってから、今は実動隊員として来ているのだと気づく。しかし慌てて訂正する必要はなかった。
『あれえ? 夜風? おかしいな、朝陽に送ったはずなんだけど』
「その声は氷人! お前夜風をこんな場所に連れてきて危ねえだろ!」
オウムがまねたのは夜風を増援に紛れ込ませた氷人その人だった。朝陽と養成学校から知り合いだという氷人はもちろん銀河とも同期で、銀河は濡れオウムの向こうにいる友人へ遠慮なく叱責を飛ばす。
『あ、なんだ朝陽いるじゃん。夜風って知ってびっくりした?』
「俺は銀河だ!」
へらへら笑っていたオウムは一変、まるで氷人の仕草までまねるようにビクリと跳ねて驚き、ふにゃりと曲がった翼で頭を抱えた。
『怒るなよお。お前ら兄弟は声だけで区別すんのほぼ無理だって』
「朝陽さんはすぐ横の納屋にいると思います。オウムは濡れて飛べそうにないので私が運びましょうか?」
氷人が返事をするせつな、ザアザアとノイズのようなものが流れた。
『おー、助かる。大至急頼むよ、夜風。ちょっとマズいことになった』
夜風は思わず銀河と顔を見合わせた。よく耳を澄ますと氷人の声とともに向こう側の空気の揺れが伝わってくる。中には時折、人の話し声のような音も聞こえ、なにを言っているかまではわからなくとも緊迫した気配を感じた。
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