109 罠②

 夜風は両手に油紙のオウムを抱え、銀河といっしょに走り出した。納屋に向かうと朝陽が出てきており、他の増援員から報告を受けている。


「朝陽さん!」


 ぐったりした通信用オウム、夜風と銀河の表情。朝陽の目はすばやく動いた。そして険しい顔つきになり、隊員たちの報告を手で遮る。

 勘か、はたまた秘密の目印でもあったのか。朝陽は夜風が口を開く前にオウムの主を言い当てた。


「氷人か。話せ」


 呼吸を整える一拍の間を置いたオウムは、体を横たえたまま虚空を見つめ、ノイズ混じりの声で淡々と告げる。


『俺らはハメられたんだよ、朝陽。そっちは囮だ。今アクレンツェは攻撃を受けている』


 一発の雷鳴がとどろく。西の海上で急速に発達した積乱雲が、アクレンツェを薄闇に覆う様が夜風たちにもはっきりと見えた。



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