120 暗いトンネル①
さすがに高さがあり飛び越えられないらしい。水門脇のバルブは少々錆びてて硬そうだが、夜風は銀河といっしょに掴み息を合わせて回そうとした。
「ミー!」
その時、身構えたふたりの目の前を横切っていく白い流星。いや、ビクフィ。美しい放物線を描き少ない水しぶきを上げ完璧な着水を決めたビク丸が、水面から顔を出してひと声鳴く。
「俺ら待ち、だった?」
「すごく恥ずかしいです……」
立ち止まっていた遅れを取り戻そうと夜風と銀河は急いで水路沿いを走る。ところが、しばらくすると今度はビク丸が動かなくなった。進むのをためらうかのようにその場でぐるぐる回り、こちらに向かって声を上げている。
「夜風、きっとあの中だ」
銀河が指し示したのは水路のトンネルだった。あれを抜けた先はきっと旧市街島と中ノ島を隔てる海峡だろう。
玉響はやはり旧市街島を脱したのか。それともビク丸が伝えたいものはもっと別のことなのか。
夜風は昼間でも暗闇を湛えるトンネルに不安を覚える。斜面にくぼみを入れた階段から水路の中へ下り立った夜風は、さっと近寄ってきたビク丸に銀河とともに乗り込んだ。
港島や中ノ島の水路と違ってトンネル内に電灯はなかった。両脇には通路があるはずだが、その境界線もあやふやな闇の中をビク丸は迷いなく進んでいく。
奥に進めば進むほど気温は下がっていくようだった。けれど濃く湿り気を帯びた空気は肌にまとわりつき、夜風は思わず片手を手綱から離し胸元の服を握る。肩と背中に感じる銀河の体温が震える心を守ってくれていた。
「あ。出口かな」
遠くに光が見えた。ビク丸がひと掻きする毎にその輪郭は大きくはっきりしていく。外光に照らされる壁や通路の様子もよく見えてきた。
「ミー! ミー! ミー!」
そこへ来て突然、ビク丸がかしましく鳴きはじめた。周囲からビク丸の頭へ、目を移した夜風の視界に一瞬、通路上の黒い影が映る。
「止まれ!」
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