42 隠された素顔②
「え、火曜……はまあ。夜風が覚えてなかったら言ってもかっこ悪いだろ」
「じゃあ、野犬の時すぐ立ち去ってしまったのもかっこ悪いからですか?」
「お、おうよ」
ふうん、と返しながら夜風は物音を立てないように立ち上がった。どこか居心地悪そうにうなじを掻いている朝陽に忍び寄り、右肩に目をつける。
残りの距離を思いきって飛び越え、手探りでファスナーを掴んだ。朝陽が驚き振り返る間に、パーカーの前を開いて右肩――野犬に噛まれた患部を顕にする。黒いタンクトップから覗く肌には、薄桃色の噛まれた痕が残っていた。
「よよ夜風ちゃん! そんな格好でこんな大胆なことしちゃダメでしょ! めっ!」
なにか喚いたが、夜風は黙殺した。
「実動隊の治癒師にその後治療してもらわなかったんですね」
氷人のことを思い出しながら朝陽に冷ややかな目を向ける。治癒魔装具にかかればこんな痕も残さない。
「そんなにかっこつけることが大事ですか」
「い、いや。俺、魔装具が苦手で……」
夜風はきょとんと瞬いた。すると朝陽があからさまにしまったという顔で口を押さえる。
実動隊はエクラ社製魔装具の力と技術を見せつける顔と言っていい。だからこそ養成学校では厳しい規律と訓練を課され、それに耐え抜いたエリートと呼ばれるに相応しい者だけが実動隊員となれる。
卒業試験内容を夜風は詳しく知らないが、政府管轄の保安官にも携帯を許可されていない魔装具の操作技能は、特に重要視される能力のはずだ。
もちろん苦手な魔装具の種類があってもおかしくはないが、実動隊なら夜風が施した治療を引き継ぐ程度簡単だろう。
じっと視線で問い詰める夜風にため息をこぼしながら、朝陽はファスナーを直した。
「夜風だから話すけど」
そう前置いた朝陽は、夜風の手からタオルを取ると頭にかぶせてきた。そのまま混ぜるように拭かれて夜風は慌てる。だがすぐに動きを止めタオルで視界を覆ったままの朝陽に、顔を見られたくないのかもしれないと思い直した。
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