43 隠された素顔③
「さっきの郊外訓練で置いてかれた話もそう。俺なにやっても覚え悪くて、いつもみんなから一歩二歩遅れるんだ」
「えっ」
朝陽さんが? という言葉は寸前で飲み込んだ。
「特に魔装具がめちゃくちゃ苦手。しかも魔力耐性が低くて、熱とかの副作用が出やすいんだ」
「それじゃあ私の処置後も……!」
「いやいや! 夜風ちゃんの時は平気だった。うまい人がやるとある程度はだいじょうぶなんだ」
さすがだね、とタオル越しに頭をなでられて、夜風は安堵の息をつく。しかし、つづく朝陽の声は陽気を振りまきながらもにじむ切なさを拭いきれていなかった。
「それを、同期生からバカにされてたんだ。なんか俺と似てるやつがすげえ優秀でさ。そいつに比べ俺は、って感じでよ」
「バカにされてた……」
私と同じ? トイレで水をかけられひざを抱えていた自分と朝陽を重ねる。しかし夜風はすぐにその思考を振り払った。
「でもそこから努力をされたんですね。だって今あなたは、誰よりも実動隊の制服を着こなしています」
女性に囲まれてちやほやされているのは、朝陽がけして女性に手を上げないやさしさを持ち、細かい気配りができるからだ。実動隊隊長の地位も実力も人気も、持って生まれた才能なんかじゃない。たゆまず積み重ねてきた研さんの賜。
この人は痛みも苦しみも知っている。そう思った瞬間、夜風はどうしても朝陽の顔を見たくなった。
「すみません。私、あなたのこと誤解してました。その……」
軽薄に映っていた朝陽の姿を思い浮かべたとたん、キスの記憶まで掘り起こしてしまい目が泳ぐ。あれは結局なんだったのか、聞いてみたいけれどずぶ濡れの服が邪魔をする。こんな格好では勇気も自信も持てるはずがない。
「いや、いいって。実はさ……勤務中は堂々と華やかに振る舞えって社長に言われてるんだ。だからその、素の俺はこっちなんだよ」
会社のイメージ作りのためだろう。夜風は深くうなずく。
「そうなんですね。どうりで今日は少し雰囲気が違うと思いました」
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