127 ひとりじゃない②
「あの、玉響さんを知りませんか? 私たちをここに隠してくださったあと、どこかへ行ってしまわれたのですが……」
ひどく気に病んだ面持ちの母の横で、長女は玉響の姿を探すようにきょろきょろと首を動かした。手のひらの宝玉を握り隠して、夜風は
「玉響さんも発見されました。どうか安心してください。まずは港島へ避難しましょう。私が実動隊員を呼んできます」
「おーい! 夜風ちゃーん!」
そこへ水路に響き渡った声を夜風は銀河のものだと思い振り返った。しかし実動隊服を着て、ハーフアップにした赤髪を風になびかせているのは朝陽だった。
こんなところにいたのか、と言いつつ氷人から借りたメリュジーヌの手綱を引いて朝陽は笑顔を見せる。
「避難者の数が多いから今近くの停留所回って水上バス探してんのよ。上の待合所にみんな集まってもらったから、夜風ちゃんもそちらのマダムとレディを連れて行ってくれ」
つぶらな瞳で不思議そうに見上げてくる少女へ、朝陽はわざと茶目っけたっぷりにウインクする。彼が来ただけでまるで花が咲いたように場が明るくなった。
ブーツや服についた泥まで粋に魅せる朝陽に夜風も励まされつつ、疑問が湧いて首をひねる。
「近くに水上バスありませんでしたっけ? 私と朝陽さんで乗ったビクフィファーム行きの」
「そう。俺もここに来た時見た気がするんだけどないんだわ。他にも逃げ遅れたやつらが先に乗っていったのかもな」
朝陽の推測も十分に考えられたが、夜風の胸は妙な予感にざわめいた。
にわかに目を覆い塞いだ銀河のぬくもりが蘇る。腰に回った腕がせつな、苦しいほど締めつけてきて彼の押し殺した声が鼓膜を震わせた。
――全部、俺のミスだ。
「朝陽さん! 銀河さんが今どこにいるかわかりますか?」
「いや、俺は夜風ちゃんといるもんだと思ってたから。あいつ、いなくなったのか?」
姿の見えない銀河の行方がわからないと知って、朝陽の語気が険しいものになる。夜風は〈人魚の涙〉を両手で包み、胸をドクドクと叩くこの予感は自分の早とちりではないかと冷静に見つめ直した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます