128 ひとりじゃない③

 傷つく痛みを知り、人の悲しみに寄り添えるやさしい銀河が、深く絶望する夜風と玉響の亡骸を置いていくほどの理由。

 責任に潰されてひとり逃げ出すような人じゃない。銀河にはアクレンツェの平和を守る確固たる意志がある。だから辛酸を舐めてでも、セキュリティ部の諜報課に留まる道を選んだ。


「とりあえず俺はもうひと回りして来るつもりだから、そのついでに銀河の野郎を捜して――」

「戦いに行ったんだ。誓いを守るために」

「え?」


 手のひらに巻かれたハンカチを見つめ、夜風はうなる。


「行かなくちゃ。私が」


 朝陽の怪訝な眼差しにも気づかず、夜風は地を蹴り走り出す。水路の出入り口に差しかかる間際、顔だけ振り向き叫んだ。


「すみません! 母子の避難誘導お願いします!」


 説明もせず衝動のままに駆け出してしまったのに、朝陽は「銀河のことよろしくな」と返事を寄越した。

 夜風は海峡沿いの通路に出ると来た道を戻り、ビク丸を呼んだ。


「ビク丸ちゃん! ビク丸ちゃん!」


 するとすぐに鳴き声が返ってきた。ビク丸は橋の向こうから、ここにいるよ! と主張するように跳ねながら泳いでくる。

 玉響のことでいっぱいになり、ビク丸を気にかける余裕を持てなかったがそばにいてくれたことに夜風は頬をほころばせた。


「ビク丸ちゃん、銀河さんがいなくなったの。旧市街島の北側に行ってみよう」


 銀河と再会した時、彼は旧市街島のほうから駆けてきて橋の上で野犬に襲われていた。黒衣をまとい諜報員としてなにかを探っているうちに襲撃されたのなら、野犬を操る黒幕に関するなにかが旧市街島の奥地にあると夜風は踏んだ。


『それなら任せて! 僕、水上バスに乗る銀河を見たんだ。それで後を追ってもらった魚たちに今聞いたら、ビクフィファームの島に行ったってさ!』

「ビクフィファーム? そんな離れたところに犯人が……って、えええ!? ビク丸ちゃん今喋……っ!?」

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